第5章 アツい夏は青い春に決まってる
『・・・うわっ、寝すぎた!』
ガバッと起き上がると、目に飛び込んでくるのは慣れ親しんだ自分の部屋で、これまで張り詰めていた緊張の糸が切れた。(寝てたくせに、とも思ったけれど。)
部屋はおろか、夏だと言うのに窓の外から見える景色も既に真暗で、折角傑に会えて、高専にも帰って来れたというのに寝てしまった事実に少しばかり落胆した。
そんなことより、どうやら私はまた傑に部屋まで運ばせてしまったようだ。松野さんの車の中で、繋いでいたあの手の感触が忘れられずその手を眺める。
・・・もっと傑と話したかったな。
もっともっともっと、、、。そんな欲深い感情が自分の中に潜んでいることに、自分が一番驚いた。そんな時だった。
「オマエ絶対ずるしてんだろう?」
大きな声で叫ぶ五条の声が部屋の外から聞こえてきたのだ。いつもだったら、うるさいなと思うソレも、久しぶりに聞くとなんだかちょっぴり懐かしくてそれさえもが安心感へと変わっていった。
そうして部屋の外へ出れば、向かいの傑の部屋から騒がしい声が聞こえてくる。それは少しだけ意地悪な傑の声に、怒った五条の声、それを見て笑っている硝子の声だ。早くみんなに混ざりたくて、ノックもせずに傑の部屋の扉を開けた。
『・・・入ってもいい?』
「良いも悪いも花子のお疲れ様パーティーなんだけどね。」
『え?そうなの?』
「ったく主役がいつまでも寝てんじゃねぇよ。待ちくたびれたわ。」
『起こしてくれれば良かったのに。』
「何度も起こしたけど、花子が全然起きなかったんだよ。」
硝子が言うんだから、本当なのだろう。
一度寝たらなかなか起きられないのは、沢山の呪力を使ったからだ。そして寝ることで呪力と頭痛の回復をしている訳で。
「突っ立てねぇで、そこ座れよ。」
なんて五条はまるであたかも自分の部屋かのように振る舞い、座れと言われた硝子の隣に腰を下ろした。五条と傑はスマブラをやっていたようで、何度やっても傑が勝つから、五条が不機嫌だと硝子が耳元でこそっと呟く。次こそは勝つからな、と意気込む五条を硝子は5回は見たと付け足した。
「男ってしょうもないよな。」
『見てる分には楽しいけどね。』
「それな。」
結局この回でも五条は傑に勝つことは出来なかった。