第5章 アツい夏は青い春に決まってる
「・・・寝た方がいいんじゃなかった?」
『え?』
「頭、痛むんでしょ?前に反動の頭痛は治せなくて寝るのがいいって硝子から聞いたんだ。」
『なんだ、知ってたんだ。』
花子のことなら何でも知っているよ、と言ってしまいたかったが、過去にこれで一度フラれた経験がある私はその言葉をグッと飲み込む。女心とやらは本当によく分からない。
そんな小っ恥ずかしくて忘れさりたい過去を脳内から追い出して、繋がれた手を優しく規則的になぞれば、彼女は意図も簡単に眠りについた。少し痩せていたけれど、私が見ただけでも分かる程に花子の呪力は格段に上がっていた。
そんなことを考えていると、ふと視線を感じバックミラーを見れば案の定運転中の松野さんと目が合う。何となく言いたいことは分かる。頬を少し赤らめて、前方を見ながらも不自然な目の動きが全てを物語っている。
「そう言えば松野さんにはまだ言ってなかったですね。実は私たち付き合ってるんです。」
「ど、どうりで。仲がよろしいなとは思っていたんですが・・・、」
「・・・?」
「その・・・、あ、あまりにも距離感が近いなと思いまして。」
「すみません、以後気をつけます。」
「あ、いや、別に、そんなつもりじゃ、」
なんて慌てる松野さん(26)は風の噂によれば、どうやら恋愛経験0の童て・・・魔法使いらしいのだ。悟と2人で、私たちがココを卒業するのと彼が卒業するのとどちらが早いか賭けているのはここだけの話だ。(私は後者に賭けた。)
そうしてあっという間に高専に戻ってくると、花子の帰りを待っていた悟と硝子も寮の外でこれでもかという程に首を長くしていた。
しかし当の花子はというと・・・
「「寝てんのかい。」」
高専に着き何度も声をかけるが一向に起きそうにない花子を背中に背負って寮まで歩いてきた。
「うわ、コイツ呪力上がってんな〜」
「そんなことより、少し痩せたな。」
悟と硝子に頬をつつかれたり、脇をくすぐられても熟睡してしまった彼女が目を覚ますことはなかった。仕方なく、そのまま部屋に送り届けることにすると、しょうもない一言が2人から飛んでくるのだった。
「「送りオオカミにはなるなよー」」