第5章 アツい夏は青い春に決まってる
「・・・どう?少し良くなった?」
『ん・・・だいぶね。ありがとう。』
「歩けそうなら外で松野さんが待ってるから、行こうか。」
幾らか顔色の良くなった花子の手を引き、歩き出す。絡めた指を少しだけ花子が引いた気がして、具合が悪いのかと思い振り向くと、彼女は俯きながら頬を赤らめていた。理由はもちろん聞かなくたって分かっているけれど。
「どうしたの?顔赤いけど。」
『・・・意地悪・・・っ。』
「何が?」
分かってるくせに、なんて頬を膨らます花子は愛くるしいくらいに可愛い。好きな子にはどうしたって、意地悪したくなってしまうのは男の性だ。仕方がない。
約1ヶ月ぶりの再会に加えて、彼女とは気持ちが通じ合っている。本当ならこの場で強く抱きしめてしまい程の気持ちを、押し殺して我慢しているだけ褒めてもらいたいものだ。
そんな煩悩と隣り合わせていることを花子に悟られぬように、努めて涼しい顔で、松野さんの車へと向かった。
「山田さん、体調はいかがですか?」
『だいぶ良くなりました。遅くなってすみません。』
「いえ、それは大丈夫なんですが・・・、」
と、なんとも歯切れの悪い松野さんと、バックミラー越しに目が合う。言いづらいことだと言うことも、何のことなのかもすぐに分かった。
「先程夏油くんに言われて山田さんにお電話で確認したのですが、頭痛の対処方はないようで・・・。」
「原因は?」
「呪力の乱れやコントロールが未熟であるためであって、呪霊の声は関係ないようです。」
『・・・未熟、』
「あ、いや、すみません。」
“未熟”というワードを呟き俯く花子に松野さんは慌てて謝る。誰にでも何にでも初めてはある、そう花子の肩をポンポンと優しく叩く。
「あと、山田さんからで、やはり慣れるしか無いようなので出来る限り耳を塞ぐな、聞け、とのことなんですが・・・そのヘッドホンは?」
「あぁ、すみません。これは私がさっき店で購入したんだ。応急処置としてね。」
「わかりました。ひとまずここでは判断しかねるので、まずは高専に戻り指示を仰ぎましょう。」
『・・・。』
そうして松野さんは車を発進させた。