第4章 この夜空にあなたを思い浮かべて
『・・・まだ心臓が、ドキドキしている・・・。』
傑と電話を切った直後、高鳴る心臓の鼓動を確認するように胸に手を当てる。
・・・これが恋、。
ふわふわとした今まで感じたことのない変な高揚感が身体を包み込み、それまでの辛かったことがまるで嘘のように消えた。
そして急に静かになった部屋に寂しさを感じて、直ぐに頭の中は傑のことでいっぱいで。名残り惜しい気持ちから今し方まで傑と繋がっていた携帯に目をやると、不在着信を知らせる赤いランプがついていた。
いつの間に?
そう思い確認してみるとその着信は五条からで、どうやら傑と話している最中に電話をかけてきたようだった。
23時ちょっと前。
いつもならへばって寝ている時間だけれど、このうるさいくらいビートを刻む心臓がなかなか身体を休ませてはくれない気がして、良い暇つぶし程度の軽い気持ちで五条へと折り返した。
『もしも』
「おっせぇよ、バカが。」
『はぁー?』
折り返してやったと言うのに開口一番がコレだ。こんなんだから私と五条はいつもすぐに口喧嘩へと発展する。優しい傑とは全然違う、なんて思っていると電話の向こうの五条は不機嫌に言葉を繋げる。
「小便漏らしてねぇか気になって電話してやったのによ。」
『漏らしてないわっ!!』
失神したなんて言ったら一生笑われる、この一瞬でそこまで想像できた私は余計なことは言わないでおいた。
『ってか、私忙しいんだけど?そんな揶揄うために電話してきたなら、』
切るよ、そう言おうとしたときだった。
「思ったより元気そうで安心したわ。」
さっきまでの意地悪で不機嫌な声とは違って、初めて聞く五条の優しい声に少しだけ戸惑った。
『あっ、うん。・・・ありがと、』
「・・・元気か?」
『うん、元気だよ。あ、そういえば傑と喧嘩したんだって?』
「なんで知ってんの?」
『傑とちょっと前まで電話してたんだ。』
「ふーーーーん。だから最強のオレへの折り返しが1時間以上もあとなわけね・・・。あ、もしかして付き合うことにでもなった?」
『なっ、ご、五条には関係ないでしょ?』
この動揺をいくら電話越しでも見過ごすはずのない五条は、図星かよとすぐにいつもの意地悪な五条悟に戻った。