第4章 この夜空にあなたを思い浮かべて
『傑と話したら元気出てきた。明日からも頑張れそうだよ。』
「そうか、それは良かった。でも無理しない程度に頑張って。」
『うん、ありがとう。』
「それから何かあったら・・・・・いや何もなくてもいつでも連絡してきてくれて構わないからね。」
最後に可愛く笑った花子におやすみと告げて電話を切る。すると携帯の画面には1時間35分と通話した記録が残されていた。体感的にはほんの一瞬だったけれど、随分と長電話していたことに自分でも驚いた。
23時。
寝てしまおうかとも考えたが、好きな女の子と気持ちが通じあったことが単純に嬉しくて、嬉しくて。思いの外高揚しているこの気持ちを鎮めるために屋上へと足を運んだ。
重たい扉に手を掛けて少し開けると、夜だというのに暑い風が身体を纏った。そして誰もいないと思っていた屋上(そこ)には、柄にもなく星を見上げる悟がいた。
「何ニヤついてんの?」
「え?」
「気持ち悪いくらいニヤけてんぞ?」
悟に言われ、思わず自分の頬に手を添える。そんなに分かりやすい程までにニヤけていたつもりもないが、呪術師とは言え私だって思春期の男子高校生だ。好きな女の子が彼女になったら、そりゃニヤけたくもなるし、惚気けたくもなる。
「すまないね、そんなつもりはないんだけどね。」
「相変わらず胡散臭いねぇ。どうせ花子絡みでしょ?」
「あ、分かるかい?」
いつもより饒舌に話す私に、面倒くさそうに悟はため息をひとつ零す。ベンチに腰掛けると、何も言わず悟も隣に同じように座る。そして何も聞かれてはいないが私は先のことを話し出した。
「花子から電話が来てさ、」
「へぇー。」
「おい、もう少し興味持てよ?」
「だって聞かなくても大方予想つくし、」
どうせ、好きとか言われて浮かれてんだろう?
なんてこんなところでも勘の良い悟にはやっぱり敵わないなと心底思う。
そんな私に比べて悟は少し浮かない顔で。
「悟、何かあったのか?」
「いいや、何もねぇよ。」
悟がこれ以上踏み込んでくるなよ、と言わんとしていることはその眼から十分に伝わってきたし、聞くつもりも毛頭ない。虫の居所が悪いんだろう、このときの私は本気でそう思っていた。