第4章 この夜空にあなたを思い浮かべて
『キス・・・したの初めてだって言ったじゃん。』
「あぁ。」
『気付いてるかもしれないけど、・・・その、そもそも、私恋もしたことがなくて。だから、好きとか恋とかそういうのよく分からないんだ。』
花子はまるで堰を切ったように言葉を紡ぐ。そして私はその言葉ひとつひとつにどぎまぎされて、自分の鼓動音も次第に大きく脈打つ。
『でも辛いときにいつも思い出すのは、傑のことばっかりで。会いたいなあ、とか元気かなあ、とか任務で怪我してないかな?あぁ声が聞きたいなって。馬鹿みたいにそればっかり。』
電話の向こうで話す花子の声は震えていて、泣いているのかもしれない。そう思ったら、電話越しなのが少しだけ煩わしく感じた。そして自分の中にあった淡い期待がどんどんと現実味を帯びてくる。
『・・・ねぇ傑、これが恋だよね?』
なんてずるい質問なんだと思ったけれど、もしかしたらずるいのは「そうだね」と答えようとしている私の方なのもしれない。だってそうすれば、必然的に彼女の心を捕まえることが可能になるのだから。そう分かって居ながらも私はやっぱり「そうだね」なんて、皆から言われる“胡散臭い笑顔”を貼り付けて答えていた。
『・・・私も傑が好きだ。』
人並みに恋愛はしてきた。
彼女がいたことだって何回かあったし、キスより先のことだってそれなりに経験してきた。ただ、どちらかと言えば好かれるケースのが多くて、今回のように追いかける恋愛はハジメテで、それに加えて想い人が呪術師だなんてこともハジメテだった。
花子の言うハジメテとは訳が違うかもしれないけれど、この恋は私にとってもハジメテなことが多い。だから私の声だって震えてしまうのだ。
「正直、嫌われたかもって思ってた。この2週間音沙汰なかったし。返事はいつでもいいよ、とか言ってかっこつけたくせに、本当は告(いっ)た日からずっと返事が気になって気になって仕方なくてさ。・・・かっこ悪いな。」
面目ない、そう付け足すと自分の気持ちに気が付いた花子は恥ずかしげもなくこう言うのだった。
『そういう傑が、私は好きだよ。』