第4章 この夜空にあなたを思い浮かべて
「それで喧嘩中もずっと悟が無下限を使ってるもんだから、“これだからおぼっちゃんは喧嘩が弱いんてすね”って煽ってやったんだ。」
『うわ、五条めちゃくちゃキレたんじゃない?』
「あぁ。互いに何本か骨は折れてたな。すぐ硝子に治してもらったけど。」
『それ、一番の被害者は硝子じゃん。』
教室に花子が居なくていつもより静かでみんなが寂しく感じていること、週末に行った任務のこと、硝子のタバコを吸う本数が少し増えたこと、それから一昨日に些細なことで悟とケンカをしたこと。少しでも花子が元気になれば・・・というのは建前で花子と1秒でも長く話していたくて、この2週間で起きた高専(こっち)の話をした。
最初こそいつもと違った様子だった花子も、話をしていくうちにだんだんと普段通りの声色へと戻っていった。
「嫌じゃなかったら、北海道(そっち)の話も聞かせてくれないかい?」
ある程度温まった場で意を決してみるも、花子の返事はうんと言いながらも、あまり乗り気では無さそうだった。
「ちゃんとご飯は食べてるかい?」
『うん、ちゃんと食べてる。』
「夜は?ちゃんと眠れているかい?」
『疲れちゃって、毎日ぐっすりだよ。』
「怪我はないかい?」
『うん、どこも怪我してないよ。あ、筋肉痛はあるけど。』
なんか傑、さっきからお母さんみたい、なんて渇いた声で笑うから花子への心配は募るばかり。どう声をかけるべきかと考えているうちに、先に重たくなった空気を破ったのは花子の方だった。
『傑、・・・私ね、心が痛いんだよ。』
「・・・こころ?」
『秘密の部屋も辛いんだけどね、夜蛾先生から聞いた女性の日記読んじゃって。・・・あれ本当の話だったよ。』
「・・・。」
『いや、先生から聞いた内容より酷かったかも。だからちょっとね。関係ないのに私が落ち込んじゃって辛いなーって。・・・そしたらさ、急にみんなのこと思いだして、あぁ今、傑の声が聞きたいなって。』
それで電話しちゃったんだ、と彼女は笑う。
これで期待するなという方が難しい。もしかしなくても花子も私のことが好きなんじゃないのか?という淡い期待が勢いよく膨らんだ。