第4章 この夜空にあなたを思い浮かべて
“「この強力で凶悪でステキなチカラを未来永劫、誰にも遺伝しませんように。私と同じように辛く苦しい思いをする人が二度と産まれてきませんように。私の命にかえて、この願いが少しでも叶いますように。」”
日記の最後のページに書かれた文は遺書で、それは愛のある呪いだった。読み終えると、頬には一筋の温かい涙が伝っていた。
時代や状況は違えど同じようなチカラを持った同世代の彼女の言葉たちに、私は酷く心を揺さぶられ、口を開けば泣きごとが出てきてしまいそうなほどだった。
この感情を誰かに吐いてしまいたい、弱い自分を晒して優しく抱きとめて欲しいだなんてずるい考えが頭を過ぎる。
『みんなに会いたいな・・・傑の声が聞きたいな。』
この2週間。
何度も硝子か傑に連絡しようかと携帯を握りしめたが、声を聞いてしまったら帰りたくなってしまいそうで、そのボタンを押すことはなかった。
あと2週間。
耐えに耐えて頑張れば、また高専へと戻れる。そう自分に言い聞かせてみるも、一度口にしてしまった弱さは直ぐに脳内を支配していった。そして気がついたときには、傑へと電話をかけていた。
『もしも』
「花子?大丈夫か?何かあったのかい?」
2コールもしないうちに、この回線は北海道と東京を繋いだ。私からかけたはずの電話なのに、出し抜けに傑が質問をしてくるもんだから思わず笑みが零れそうになるのをぐっと堪えた。
そして優しく響くその声に、私は心底安堵した。
『ううん、何もないよ。全然大丈夫。』
「一度も連絡が来ないから、今日みんなで花子の心配をしていたところだったんだよ。」
『え、そうなの?それはちょっと嬉しい。』
堪えきれなくなった笑みが、ふふふ、と声になって漏れる。正直、こんなに笑ったのは久しぶりだ。
「ねぇ、本当に大丈夫?」
突然の傑からの質問に、思わず吃る。冷静を装っていつも通りに大丈夫だよ、と返したつもりだが、それはつもりでしかなかったようで。
「私が分からないと思ったかい?」
『・・・。』
「いつもと声が違うよ?・・・もし時間があるならちょっと私の話に付き合ってくれないか?私は今、ものすごくキミと話したい気分なんだ。」