第4章 この夜空にあなたを思い浮かべて
「一人いねぇだけで、随分と静かだな。」
あいも変わらず、悟はご自慢の長い足を教室の机に放り投げてぶっきらぼうに呟く。
花子が北海道に行って早2週間。
悟の言う通り、彼女がいないだけで随分と教室は静まり返っていた。元々はこれが普通だったはずなのに、寂しいと感じてしまうのは花子がここに居ないからだけではない。
「硝子には連絡はあったかい?」
「私にはまだないよ。夏油は?」
「いや、私にもまだない。」
この2週間、一度足りとも花子からの連絡が誰にもないのだ。そのことがより一層私たちを寂しく、不安にさせた。
「いや、オレにも聞けよ。」
「花子が私たちを差し置いて五条に連絡することは、まずない。絶対ない。」
「え、オレそんなに嫌われてんの?」
「「あぁ、嫌われてるぞ。」」
こんなにイケメンで最強なのに?と悟は冗談なのかマジなのか分からないが大袈裟にリアクションをした。
花子のことが心配で毎日のように、「今日こそは」と携帯を握りしめてみるも、通話ボタンを押すか押さないか悩み抜いた挙句、「疲れているかもしれないから」と勝手に理由づけてその行為を諦めていた。この2週間、電話はおろかメールを送ることも出来なかった。
そもそもだ。
花子を北海道に送り出したときに私はこう言ったのだ。
“「告白の返事はゆっくり考えてみてくれ。」”
“「あまり無理はしないでね。」”
“「何かあったらいつでも連絡しておいで。」”
と。
何かなくたって連絡してくれ、と言えば良かったものの、最後に見た強い意志と少しの不安が混じった花子の目を見てしまったら、そうは言えなかったのだ。そうしてなんとなく自分から連絡することを躊躇ってしまい、今に至る訳だ。
「花子、“秘密の部屋”に入れたのなかな?」
「あの蠅頭が沢山いるって部屋か。想像しただけで気持ち悪いな。」
「アイツ、ビビって漏らしてたりして。」
「そういうこと言ってるから嫌われんだよ、クズが。」
悟と硝子の話を上の空で聞きながら、「今日こそは」と携帯を握りしめる自分を想像して、心の中で情けない自分を嘲笑った。