第4章 この夜空にあなたを思い浮かべて
『傑は本当だと思う?』
「ん?」
『昔の女の人の話。』
「どうだろうねぇ。本人から聞いたわけじゃないからな。」
結局部屋に引き返すタイミングを逃して、今も尚硝子と共に二人の会話に聞き耳をたてる。いくら花子でもやっぱり色々考えてるんだな、と心の中で呟く。
「真相は分からないけど、私は本当の話だと思うよ。でも、彼女のアレは呪いなんかじゃない。」
『え?』
「もうこれ以上傷付く人がいないようにって願った愛なんじゃないかな。」
またまた胡散臭いことを、涼しい顔をしてさらりと言いのけてしまう傑に、思わずオエっと吐き気を感じた。
「これはあくまで私の憶測だけどね、花子のお母さんが強くなりますようにって願ったから、キミはこの素晴らしいチカラを神様からプレゼントされたんじゃないかな?」
『お母さんはそういう意味で強くなれって言ったんじゃないと思うけど・・・』
「信じる者は救われる。そう思ってた方が幸せな気分にならないかい?」
そう言う傑の顔は今まで見たことないほどに優しい顔で、これまた優しい手つきで花子の頭を撫でる。本当にそこにいる傑は、いつもオレの隣でふざけている傑と同一人物なのかと疑った。
「え、傑ってずっと花子のこと好きだったの?」
「逆に気付かなかったのか?」
「いいえ、全く。」
傑とはグラビアの話をすることはあったが、今まで恋愛の話をしてきたことは一度もなかった。故に好きなタイプも知らなければ、花子に好意抱いていたことすら知らなかった。
その知らなかった好意も、目の前で繰り広げられている様も、気に入らないし、面白くない。だから話は聞いていなかった体で、わざとらしく大きな声を出してその場の雰囲気を壊した。
「オマエらこんな所にいたのか、随分探したぞ?・・・硝子が。」
『え、ごめんね、硝子。』
「いや、大丈夫。丁度一服しようと思ってたんだ。」
タバコに火を付けた硝子と席を入れ替わるように傑が立ち、こちらに向かいながら笑うその様は、やっぱり胡散臭い。
「白々しいぞ、悟。私が気付かなかったとでも?」
近付きながらそう言う傑が、オレの肩に腕を回すもんだから怖くて怖くて、思わず無下限を使った。