第4章 この夜空にあなたを思い浮かべて
『・・・なるほど。』
広い校庭を一人で走り、できる限りの鍛錬を行っていると珍しく走ってきた硝子から、みんなが帰ってきたと教えてもらえた。早く2人に会いたい気持ちと、キスをしてしまった手前、どんな顔で傑と会えば良いのかと浮ついていたが、それは束の間。
教室に行くと珍しく浮かない顔をした五条と傑、それに加えて教壇には夜蛾先生が2人と同じような顔つきで立っていた。私と硝子が席に着くと、早々に夜蛾先生が重たそうに口を開いた。
雰囲気から察するにいい話ではないことは分かった。
そうして聞かされた話は、今回の北海道でのことで、所謂それは私のルーツの話だった。
全て知らなくて初めて聞く話ばかりだった。
すごいとか感動したとか悲しいとか辛いとか驚いたとかそのどれもが該当するようで全く違うような、自分でもこの気持ちが何なのか具現化するのは難しくて、冒頭のようになるほどと答えるのが精一杯だった。
「北海道へ行くかどうか、それを決めるのはオマエ、山田自身だ」
難しいとは思うが3日以内で決めてくれ、そう夜蛾先生は付け足した。
お母さんは何も知らなかったのかな?
呪いと半日も同室とか正気の沙汰じゃない。
でも強くなりなさいってお母さんが・・・いや、私の意思は?
色々な感情が脳内を駆け巡るように走り回って、私のキャパシティは優に超えていた。目をぎゅっと瞑り蓋を閉じていたお母さんとの思い出を思い出す。
『母は施設育ちだったんですけど、他の誰よりも身体が弱くて施設のお母さん?みたいな人にすごく迷惑をかけたって。』
だから、お腹の中にいる私にずっと声をかけていた。“「強くなってね、一人でも生きていけるように」”って。それは産まれてからもよく言われていた。
“「呪いが見える誰かがやらなくちゃ、でもあまり無理はしないでね」”
“「人の命を救うことほど立派なものなんてこの世には何もないわ、でもあなたの命が一番大事」”
どうして今まで忘れてしまっていたのだろうか。
思いだせるお母さんの言葉は、呪いなんかじゃなくてどれもこれも愛に満ち溢れているものだった。やっぱり五条の言う通り呪っていたのは自分自身で、そこには愛しか存在しなかったのだ。
『私、行きます。強くなりたいです。』
だって私はお母さんに恥じないように生きると決めたから。