第3章 恋に師匠なし術師に師匠あり
「勝負ありじゃのう。」
広い武道場で悟と私は、山田さんと竹刀打ちをしたが結果は酷いものだった。剣道の経験はないが、それでも血気盛んな男子高校生が相手(しかも2人)じゃ流石に分が悪いと思っていたが、それは大間違い。
敷地内の武道場に入ると沢山の賞状やメダルがずらりと並んでいた。そのどれもが山田さんのもの。まさか、めちゃくちゃ強いのか?そう思ったときには2人とも隙をつかれ負けていた。
構えては一本取られ、また構えても一本取られ、と悟と私は同じことを何度も繰り返しているようだった。高校生なんだから体力だけは山田さんには負けていないはず、とがむしゃらに立ち向かってみるが、素人が玄人に勝つことはまずなかった。
とても75歳とは思えないその動きにただただ感服した。と同時に負けたということは、花子を養子として出すということでもあった。
「悪くない太刀筋だが、人に教える程ではないな。」
「・・・。」
返す言葉もない私たちに山田さんは続けて言った。それでもキミらの想いは伝わったと。
「養子にしたいと申したのは、もちろん彼女を成長させたかったからじゃ。だが、少しの私情もある。後先短い寂しい余生に、生きがいが欲しかったんじゃ。」
もし子供を儲けていたら・・・。
呪力が皆無でも可愛い我が子に相違ないと家を捨てる選択をしていたら、今頃孫が居たかもしれない。違った人生があったかもしれない。
「死が近付くとそういうたらればを考えてしまうもんなんじゃよ。そもそもアイヌの呪術連とは馬が合わず縁を切った。仮に彼女が特級レベルまで強くなったとしてもアイツらの所へは行かせん。」
東京の高専とやらがどんなものなのか知りたかった。何百年前の彼女みたいになって欲しくはないからのう。
「ただ、1ヶ月。彼女が嫌じゃなければ家で預かりたい。そうすれば呪力を最大限に引き伸ばしてやれる。お前たちにも悪い話ではなかろう?」
その問いに誰も答えることはなかった。
なぜならここから先を決めるのは他の誰でもない花子自身であるとみんなが分かりきっていたから。だから誰も口を出さなかったのだ。正確に言えば出せなかったのだ。
そうして翌日我々は無傷なはずなのに、重たい足取りで高専へと帰還した。