第3章 恋に師匠なし術師に師匠あり
目を合わせたり時にはただすれ違ったりするだけで、相手の心の中の声まで聞こえてしまうことは、呪霊と対峙するよりも彼女にとっては辛いものだった。
故に彼女は16歳という若さで自ら命を絶った。
そしてその後なかなか山田家には呪力のある子供が産まれず、産まれても微力な呪力程度で、その血が途絶えていくのはあっという間だった。
今では呪術連のヤツらから、彼女が辛い苦しみに耐えられなかった腹いせに山田家の血に呪いをかけたと言われている。
「真相は分からないが、事実この術式を持っているのは私だけ・・・だと昨日までは思っていたんじゃがな。」
一通り話を終えた彼はお茶を啜った。
夜蛾先生も松野さんも初めて聞いた話のようで言葉を選んでいる中、最初に口を開いたのは悟だった。
「話は分かった。で、どうしたら花子を養子にしたいって話に繋がるんだ?」
「呪力を上げるための秘密の部屋・・・実はまだあるんじゃよ。この敷地の最奥に。」
彼女の呪力を上げるには持ってこいの場所じゃ、と山田さんは付け足した。あの狂気じみた部屋に花子をいれる?だったら私たちと鍛えた方がよっぽど良いだろうと私は思った。
「それにこの術式には、刀に呪力を乗せて戦った方が効率も良いし、何より相性がいい。聞くとこによると君らはどちらも剣士じゃないらしいな。」
「じーさんは使えんのかよ?」
「試してみるかい?」
ギロりと不気味に光った山田さんの目はまるで私たちを挑発するようにそう言い放った。きっと私たちが連れてこられた理由はこれだろう。
推測するに、昨日夜蛾先生は花子を引渡すように言われた。呪力を引き上げられる、剣術も教えられる、そう言われ思い悩んだ。養女になんてなったら花子は言わずもがなアイヌの呪術連行きが決まるからだ。
万年人手不足のこの世界で、言葉を選ばずに言えば超貧弱な花子だって貴重な人員だ。手放しで譲りたくない故に、私たちを引き合いに出したのだろう。
とどのつまり剣道で勝負して、本当にこっち(高専)だって教えられる、そう証明するために私たちは山田さんと対決をしなければならないのだ。