第3章 恋に師匠なし術師に師匠あり
「まさか、かなり手強い相手がいるってことか?」
「じゃなきゃ、オレたちまで呼ばれないだろう?既に夜蛾が行ってるんだぞ?」
悟の見立てた仮説はこうだ。
特級またはそれに準ずる程度の呪霊が複数体存在し、アイヌの呪術連だけじゃ間に合わなくなり、夜蛾先生に加え私たちまで呼ばれた、というもの。もしかしたら歌姫も呼ばれてるんじゃない?なんて少しだけ楽しそうに悟は笑った。
「それはなかなか大変な任務になりそうだね。」
「ま、オレたち最強だし、パパっと片付けてアイツらに土産買って帰ろうぜ?」
「あぁ。」
そう私たち2人がいれば最強だ。向かう所敵なしだ。
花子にも言われた通り、なるべく怪我もせずに生きて帰ること。それが今私たちに課せられている最重要課題だ。
空港から出るとすぐに補助監督の松野さんが待っていてくれた。
「五条くん、夏油くん、こちらです。」
「急ぎでしょ?」
「話はタクシーで聞きますよ。」
足早に大型のタクシーの後部座席に乗り込む。さぁ詳細を、と思ったタイミングとほぼ同時に、聞き覚えのあるよく知っているその人の声が聞こえてきたのだ。
「休みの日に悪いな、五条、夏油。」
「え、夜蛾!?なんで?」
びっくりし過ぎた悟は身を乗り出して、助手席に座る夜蛾先生にづいと近付く。もちろん悟ほどではないが、私もびっくりしていた。だってきっと夜蛾先生は今第一線で祓っている、そう思っていたからだ。
「おい、五条。いつも言ってるだろう。先生をつけろ。呼び捨てにするな。」
そう言う夜蛾先生からは慌てている様子は微塵も感じ取れなかった。どうやら私たちが見立てた仮説は、違っていたらしい。良かった、と胸を撫で下ろしたが、ではどうして畑違いの我々が?という疑問だけが残ってしまった。
「ちょっとオマエらに会わせたい人が居てね。」
顔を見合わせて不思議そうにする私たちの心を読み取った夜蛾先生はそれだけ言うと黙ってしまった。
悟の隣に座る松野さんがタクシーの運転手に行先を指示する。
「ここの山田さんの家までお願いします。」
聞き慣れた苗字に、私たちの身体はピクリと反応した。何も聞かされてはいないが、絶対に花子のことだ。そう私も悟も確信した。