第3章 恋に師匠なし術師に師匠あり
「おいおいおいおい、オマエまでどうした?呪力がブレてんぞ?」
北海道行きの飛行機に搭乗し、悟に声をかけられたのは離陸してすぐのことだった。オマエまで、という言葉にひっかかりを覚えたが、それを聞くよりも早く悟がペラペラと話始めた。
「昨日の花子とそっくりじゃねぇか。2人して何かあったのか?」
何かあったかと聞かれればそりゃまぁ大ありだが、ついつい我慢ができなくて花子にキスをしてしまいました、なんて口が裂けても言えるわけがない。
「いやぁ、何も。」
「ふーーーーーん。」
何もないと悟が納得していないことなど、百も承知だ。サングラス越しから見える六眼はそう簡単には騙せないこともよく分かっているつもりだ。それでも悟はそれ以上は聞いてはこなかった。それが彼なりの優しさなのか、単に興味がないのか、何れにせよ今はそれがとても有難かった。
深く息を吐いて目を瞑る。
すると、途端に昨日のキスが思い出されてしまうくらいには私は動揺している。自分から口付けておいて、何を今更とも思う。ただ、あんなに耳まで紅く染め、目を泳がせながらフリーズする花子を見たら、喉から手が出るほどに欲しいというオトコ心と、もっときちんと段階を踏むべきだったという後悔が混ざり合ってしまうのだ。
“すまない。”
咄嗟に謝ってしまったのは、ほんの少しの後悔が勝ってしまったからで。
“好きだ。”
そう実直に伝えていたら、もしかしたら違う関係になっていたんじゃないか、とも思う訳で。
「どうでも良いけど、その呪力整えとけよ?」
悟に言われ、ハッとする。
確かに今日(正確には昨日から)は花子のことばかり考えていて。これから任務だと言うのに、こんなんじゃダメだ。
「すまない。気を引き締めるよ。」
「あぁ。それがいいと思うぞ。」
そういう悟はギラギラと呪力が漲っていて、今にも殺してしまいそうな雰囲気を纏っていた。
「珍しいな。どうしたんだ?今日の任務何か聞いてるのか?」
「いや、何も情報は聞いてない。でもおかしくないか?」
「何が?」
「北海道にはアイヌの呪術連があるんだぞ?」
オレたちのテリトリーじゃない、そう恐い顔で話す悟は今までに見たことがなかった。