第3章 恋に師匠なし術師に師匠あり
「そもそもだけど、夏油はどうして花子にキスしたんだろうな?」
“ あまりにも花子が可愛くて、ついね。”
硝子に言われて、その言葉が蘇ってくると顔の中心から熱くなるのが自分でもよく分かった。
『つい、らしい。』
「つい?」
『つい。』
「クズじゃねぇか。」
『・・・。』
「でもその“つい”が、ついうっかりなのかついつい我慢ができなくて、によっても話は変わってくるよな。」
『な、なるほど。勉強になります!』
私はよくよく昨日の出来事を思いかえしてみる。
傑はどんな表情(かお)をしていただろうか。唇と唇がくっついてから離れる瞬間はすごくスローモーションのように見えていた。確か、その瞳は閉じられていたが、頬を赤らめる様子は感じとれなかった。
唯一分かっているのは、“すまない。”と謝られたときにとても悲しそうに眉を八の字に下げたことだけだ。
『・・・分からない。』
「何が?」
『傑がどっちの“つい”なのか。』
「私も夏油と話した訳じゃないし、アイツの心の中までは分からないけど、オマエら見てて思うことはあるぞ。」
『なに?』
「夏油は花子のこと好きなんだろうなぁって。それでいて花子も夏油のこと好きなんだろうなぁってずっと思ってたよ。」
まぁ花子の方の予想はハズレちゃったけど、なんて硝子はペロっと下を出して笑う。傑が私を好き・・・?思わず首を傾げてしまったが、そうしてしまうくらいには全く思い当たる節が見当たらなくて。
「結局さ、人の気持ちなんて分からないし、こればっかりは考えても無駄だよ。考えるなら花子自身の気持ちじゃない?」
『硝子ってすごいね。恋愛のスペシャリストじゃん。』
「まぁね、何でも聞いてよ?」
『硝子は好きな人いるの?』
そこからはお昼になるまで、世間で言う所謂恋バナをした。分かったことはやっぱり硝子の経験は豊富だったことと、好みの男性はお金持ちだということ。(ちなみに結婚相手は石油王と決めているらしい。)
『石油王ってどうやって知り合うの?』
「合コンじゃね?」
『石油王の来る合コンって、』
「ねぇよな。」
そう2人で顔を見合わせて笑ったのが、ここ最近で一番楽しかった。