第3章 恋に師匠なし術師に師匠あり
「キスされたあ!?夏油に?」
五条と傑が北海道の任務へと出発したのを確認したあと、私は硝子の部屋へ訪ねていた。昨晩は全くと言っていいほど眠れず、どんよりとした空気を纏っている私を見て、硝子は二日酔いが抜けてないと思ったらしい。
が、私の話を聞き心底驚いたような声を出した。
細かいことは端折って説明したが、硝子はそれでも尚驚いたような様でこちらを見る。
「いや、私はてっきり花子は夏油のことが好きなんだと思ってたんだけど。」
『えっ!なんで?』
「なんでって、何かあったら真っ先に花子は夏油のところに行くだろ?しかも五条は五条なのに、夏油のことは傑って呼ぶし。」
『・・・。』
「まさか、無意識だったのか?」
硝子に言われて、初めて気付く。
でも五条か傑しか居なければ必然的に頼るのは優しい傑になる訳で。好きという感情がそこにあったかと問われると、正直なところ分からないが正確な答えだ。
だって・・・
『だって私、恋なんてしたことないもん。』
「一度もないのか?」
『一度もない。』
「あの人かっこいいな〜好きだな〜とかは?」
『ない。』
「この人めちゃくちゃお金持ってるな〜好きだな〜とかも?」
『ない。』
そうか、とため息混じりに硝子は腕を組む。
こりゃ参った、お手上げだと言いたげな表情にも見えた。
「まぁ、何事にも最初はあるからな。」
『そういう硝子は経験あるの?恋愛。』
「ないように見えるか?」
そう首を傾げる硝子は、歴戦の猛者と言ったところだろうか。思わず拍手を送ってしまった。
「聞きたいんだが、夏油にキスされて嫌な気分にはならなかったのか?」
『・・・ならなかった。』
「じゃあそれが五条だったら?」
『はっ倒す。』
「その違いは?」
『五条は信用ならない。』
「じゃあ夏油は信用してるの?」
『信用というか、頼りには・・・してる。』
傑には全幅の信頼を置いている。最初こそ胡散臭さはあったが、いつも優しくしてくれる。助けてくれる。手を差し伸べてくれる。それがイコール好きなのかは、よく分からないけれど、硝子にも言ったが仮にあのキスの相手が五条だったらこんなには悩まなかった。