第2章 体術体術ときどき座学
『わざわざ部屋まで運んでくれたところも優しいし、』
傑の優しいところは、挙げだしたらきりがないくらいにたくさんある。
例えば普段の体術。
五条にふっとばされたときはもちろん、傑自身が投げ飛ばしたあとでさえ、真っ先に駆け寄って来て手を差し伸べてくれる。
上手に受身が取れず、腕の骨が折れてしまったとき。
折れたのは腕で全然歩けるのに、横抱きで抱えながら私よりも慌てて硝子のところに駆け込んだり。(ちなみに受身の練習で五条に投げられた)
今だってこうやって気にかけてくれているところも傑の優しいところだと思う。五条なら絶対に見て見ぬフリか、走るのが遅いね~と揶揄うに決まっている。
それだけじゃない。
『昨日、わざとビール零したでしょ?』
「へ?」
『私が五条の質問に答えられなかったから。』
あれ、違った?私が付け足すと、横に座っていた傑は笑いながら芝に寝転んだ。
「慣れないことはするもんじゃないな。カッコつけたつもりはないが、これではカッコがつかないね。」
『そんなことないよ。ありがとう。』
「で、何か気持ちの変化はあったかい?」
傑に問われ、私は静かに首を横に振った。
じっとしてたって仕方ないと思って走ってはみたが、走ったところで何かが変わることはなかった。
『五条の言ってた通りなんだ。お母さんが呪ったんじゃない。』
自分で呪ったんだ。
お母さんしか居なかったから。お母さんにまで嫌われたくなかったから。自分の居場所が無くなりそうで不安だったから。
『分かってはいるんだ。もし私が祓うのを辞めていたとしても、お母さんは私を嫌いになんかならないって。』
それはずっと愛されてきた私自身が一番理解しているし、女手一つでここまで育ててくれたことが何よりの証明だった。いつだって私のことを一番に想い考えてくれていた。
「昨日も言ったけど、花子のお母さんはやっぱり素敵な人だったと思うよ。」
傑と話していくうちにモヤモヤと霧がかっていた頭の中が、少しずつ明るくなって行くのが分かった。
『お母さんに恥じないように生きたいな。』
青い空を見上げてぽつりと呟く。隣で横になっていた傑は起き上がると、大きな手で私の頭を優しく撫でて言った。
「立派な志じゃないか。」