第2章 体術体術ときどき座学
「あそこか。」
グランドにあるトラックを走り続けている花子を見つけ、そのままゆっくり下降するように呪霊に指示を出す。乗心地は思ったほど悪くなかった。
「休みだというのに、精が出るね。」
『っ、はぁっ、傑か。』
私が声をかけると、彼女は肩で息をしながらその足を止めた。首筋に滴る汗に、白いシャツがペッタリと肌にくっついている様は、男子高生の性をこれでもかと言うほどに刺激してくる。
冷静に、冷静に、と心の中で呟き深呼吸をひとつ。
「その様子じゃ、随分と走りこんだようだね。少し休んだほうがいい。」
近くの自販機で水を買い、芝の上で大の字になって寝転ぶ花子にそれを渡す。昨日のことだけど、と私が切り出すと被せるように花子が話し出した。
『ごめん!先に謝っておく。実は途中から記憶なくて・・、みんなに迷惑かけてないかな?』
「いや、皆迷惑はかけられていないよ。ただ、今後お酒を飲むのは控えた方がいいかもね。」
『ま じ か。』
花子はやらかしてしまった、と言わんばかりに両手で頭を抱える。その行動のひとつひとつに可愛らしいと感じて、簡単に頬が緩んでしまう。同い年だけれど、少し後から入学したせいもあってか、私にとって花子は妹みたいな存在だった。
だからついつい世話を焼いてしまいたくなって、昨晩私のベッドで寝落ちしてしまった彼女を部屋まで運んだのも私だ。
「部屋はなるべく見ないように努力したんだ。でも勝手に入ってすまなかったね。」
『いやいやいや、運んでくれてありがとうだよ。大変ご迷惑をおかけしました。これからはお酒飲まない。』
20歳になるまでは絶対に飲まない、と花子は息巻くが、きっと20歳になったてお酒に強くはならないだろうと思ったことは言わないでおいた。
『傑は優しいね。』
「私が?優しい?」
普段優しいなんて言われたことがないから(しかも直前には硝子からクズと言われたばかりだ)、思わず素っ頓狂な声が出た。
『優しいよ、とっても。』
寝転んでいた花子は起き上がり、膝を抱えて座る。優しい部分を教えて貰いたい反面、聞くのも小っ恥ずかしい。私が優しいのは花子だからだよ、とはまだ言えそうにない。