第2章 体術体術ときどき座学
「硝子はあんなに飲んで、二日酔いにはならないのかい?」
喫煙スペース(はそもそも存在しないのだが、硝子が大人たちの目から避けて吸う茂みの中を勝手にそう呼んでいる)で、相も変わらず硝子は煙草を咥えていた。するとわざと私の方へかけるように煙を吐き出し、気だるそうに答える。
「どうやら私はザルらしい。未だにそういう経験はないな。」
「本当にキミは高校生か?」
「ダブった覚えはないぞ。それにあんなにという程飲んでいない。たかがビール10本じゃないか。」
「ほどほどにしとけよ?」
本当は、十分すぎるくらいには飲んでいるよ、と言いたかったところだがその言葉は言わずに飲み込む。女の子との会話には、これでも一応は気をつけているつもりなのだ。
「それより、私に何か用か?」
「あぁそうそう。花子を探していてね。見ていないかい?」
「クズとなら会ったが、花子とは顔を合わせていないな。」
硝子の言うクズと言うのは、まぁ言わずもがな。
てっきり花子は硝子のとこにでも来ているのかと思ってここへ来てみたが、その予想はどうやらハズレたらしい。
昨日の宴で少し夜更かしをしてしまい、目が覚めるとお昼だった。お腹も空いていて、沸かしたお湯をカップラーメンに注ぎこんだまさにその瞬間だった。
向かいの部屋から、花子の叫びにも似た大きな声が聞こえてきたのだ。そして大した間も経たないうちに、部屋を飛び出したのが分かった。
追いかけるか、今し方お湯を注いだカップラーメンを食べるか私は迷った。本当に迷いに迷った。
「で、カップラーメンを食べて、今花子を探しているところなんだ。」
「クズだな。」
「腹が減っては戦ができぬって言うじゃないか。」
そう笑ってみたが、硝子から向けられる視線はまるでクズの悟を見るような眼差しと相違なかった。それからすぐに早く行けよ、とふくらはぎ当たりを硝子に蹴られて私はその場を後にした。
花子が高専に来て、大した時間は経っていない。行ったことのある場所は限られている。教室、体育館、グランド、広い庭、思い当たる節を片っ端から当たるか、とも思ったが、先日手に入れた鳥の呪霊を使ってみるのも悪くない。(だって夜蛾先生はいないし。)