第2章 体術体術ときどき座学
“「っ、き、気持ちわりぃな。」”
あと少し遅かったら呪霊の呪いに当てられていたかもしれないその子はクラスメイトだった。そして祓い終わった第一声がソレだった。他の奴らも同じ対応だった。感謝は愚か、気持ち悪がられることのが大半。
嫌になった。目の前が真暗になった。
“『もうやりたくない』”
“『見えないフリをしたい』”
“『酷い頭痛に耐えて私がすることなの?』”
何度も、何度も何度も感情的になっては、お母さんに泣きついた。お母さんは優しく抱き留めて、私が吐いた黒い感情と同じ数だけ、何度も、何度も何度も背中をさすってくれた。
そして私に優しく呪いの呪文をかけるのだ。
“「呪いが見える誰かがやらなくちゃ」”
“「あなたにはそのチカラがあるわ」”
“「人の命を救うことほど立派なものなんてこの世には何もないわ」”
そして最期にお母さんが遺した言葉にも呪われた私は、ここへ来たのだ。
“「都立呪術高等専門学校に行きなさい」”
“「強くなりなさい」”
『大それた志なんかじゃないけどね。』
「素敵なお母さんだったんだね。」
「そうか?オレはそういう正論嫌い。」
キャンディを咥えながらサングラス越しでもわかるほど嫌な顔をした五条に、傑と硝子が同時にどつく。五条は痛てぇな、と顔を歪めながらも話を続ける。
「オマエの気持ちはどこにあんの?」
『私の気持ち?』
「百歩譲って、花子のお母さんは傑の言う通り、素敵な人だったと思うよ。言っていることもドがつくほど正論だし。」
そう言うと、五条はサングラスを頭上に乗せる。間近で見えた蒼く綺麗なその瞳は怖くて。目を逸らすことさえ許されず。
「じゃぁもしお母さんが、“人を殺せ”って言ったらオマエ殺(や)れんの?」
『っ、そんなことっ、、、できるわけ、、ないっ、』
そこまで言って、五条の言っている意味を漸く理解できたのだ。お母さんの言っていることは正しい。立派で素敵だ。でもそれをしようとしている私は・・・。
「オマエ、本当に呪われてるのか?違うだろう。」
綺麗な蒼い目からは怖さが消え、優しく揺れているように感じた。この目に全てが吸い込まれていく、そんな気がした。
「自分で自分を呪ってる、の間違いだろ?」