第8章 仲直りの仕方(S.I)
時間通りに来たタクシーに彼が先に乗り込み行き先を告げる。
明らかに結婚式に向かいそうな着飾った2人なのに終始無言のタクシー内。ドライバーさんも気が重いだろうに。
今までの喧嘩ではどうやって仲直りしてたんだっけ?こんなに長く口をきかないのは初めてかもしれない。
…もしこのまま修復できなかったら?彼を失う?やっぱり謝った方がいいのかな。
推しは大切だけど彼と比べられる?じんわりと涙が滲む。メイクが崩れたら困る。我慢しなきゃ…
タクシーが披露宴会場のホテルに着いたと同時に彼はクレジットカードで支払いを済ませた。
外に出て歩き始めると、私を気にかける様子を見せながら少し前を歩く。
いつもなら歩き始めると同時に彼は私の手を引いてくれるか、私が彼の腕につかまる。そして笑って話しながら歩く。
半月前まで当たり前だった事がひどく懐かしく思えた。彼に、触りたい。でももし拒まれたらと考えると怖かった。