第7章 娘の担任(K.A)
「よかった」と彼は微笑んだ。
それからというもの、度々コーヒーを飲みに来てくれるようになった。
同僚の先生がいたり、若いママさんたちに囲まれる事もある。ご隠居さん方に昔の話を聞いていたり、商店街の活気盛んなご主人たちに気に入られたりもしていた。
たまに2人きりの時もある。話の中心はもっぱら娘の事だけどたまにお互いの、再会するまでの事をぽつぽつと話す事もあった。
「音楽は続けているんですか?」
「はい、たまに知り合いのライブハウスで弾かせてもらってます」
「ええっ、すごい!ライブハウスなんて行った事ない。生で聴いたら素敵なんでしょうね…」
「今度ぜひ。あっ、でも学校には内緒で」
「ふふ、はい」
恋愛の話は意識してしないようにした。心の奥に小さな火種がある事に、気づかないように、気づかれないように蓋をした。
冬が近づいて来た頃、その日娘はお友達に誘ってもらいお泊まり会に参加していた。
夕方少しだけ店を閉めて買い出しにでかけた。商店街で出会う人たちと談笑しながら買い物をしていると雲行きが怪しくなってきた。
洗濯物を取り込まないと。足早に帰る途中、もう少しの所で降り始めた。