第7章 娘の担任(K.A)
「きゃっ」「うわっ」
とっさに出た手は相手の胸に。
「ごめんなさいっ!」と顔をあげると…
「やっぱり、あみ先生」
すっかり大人の男性に成長した彼だった。
背も伸びて、端正な顔立ち。顎に生えたきれいな形の髭がいやにセクシーに見える。
彼の胸に触れたままの手を優しく包んでくれた。
はっ、と我に返り手を急いで引っ込めた。
「あっ、あの、さくらの母です!お世話になっております!」
真っ赤になって頭を下げる私に優しく微笑みながら
「今年度、担任をつとめさせていただきます。よろしくお願いいたします」と返してくれた。昔から落ち着いた子だったけど、すっかり精神年齢を追い越されてしまったように感じた。
カウンターに座ってもらい、
「お茶菓子は用意しないようにってなってますけど、うちが最後なんでしょ?コーヒー召し上がりませんか?」と聞いてみた。
「じゃ、内緒で…一杯、お願いします。」
コーヒーを淹れている間、沈黙が流れる。いろいろと、お互い聞きたい事があるはずなのに切り出せない。
ようやく彼から話し出してくれた。
「さくらさんの苗字が目に止まって、保護者の名前を見たら…まさかとは思ったんですけど…」
「私もです。クラス便りのお名前を見て、まさかって」
お互い笑い合った。
「あみ先生、少しも変わってないです。あの頃のままです」
「ええっ、そんなわけないですよ、もう、いくつだと思ってるんですか…それに先生はそちらでしょ?」
「あぁ、そうですよね、ハハハ、じゃあなんて呼んだらいいのかな…」
「他の保護者さんと同じように呼んでください」
「そっ、か。さくらさんのお母さん…ですね」
その時の私は、彼の少し悲しそうな表情に気づかないふりをした。