第42章 スルタンコラボ企画 上編 お相手:冨岡義勇
ゲルを訪れていた数人の女性達が
二人の前に座ると
みくりと小野寺が
自分達の後ろに置いていた
婚礼衣装を取り出して広げる
「私はその…弓位しか取り柄がなくて、
その、刺繍は全然…不得手でして」
そう言って小野寺が恥ずかしそうにしながら
ゲルを訪れていた女性達に自分の
刺繍を施した衣装を見せた
「ううん、そんな事ないわよ。
私の衣装に比べたら、数倍マシよ~」
そう女性達の中の一人が言って
小野寺の手から衣装を受け取ると
「懐かしいわ…。
私も自分のぐちゃぐちゃの
刺繍の衣装が恥ずかしくて仕方なくて。
でもね、彼が言ってくれたの。
俺は、お前が馬に乗ってる姿が気に入って
選んだんだから、刺繍の腕で
お前を選んだんじゃないって…」
そう言いながらもチクチクと
1針2針と刺繍を足して行くと
その隣に座っていた女性に
小野寺の衣装を手渡した
みくりの婚礼衣装を
受け取った女性がまぁと感嘆の声を漏らして
それからフッと笑顔を浮かべた
「亡くなった、沙羅さんも…
一族で一番の刺繍の腕だったけど。
刺繍の腕はみくりちゃんの方が
受け継いでいたのね」
「いえ、そんな…。私は…
刺繍しか…出来ないんで…」
そう申し訳なさそうにみくりが言って
「でも、みくりの刺繍は
凄い高値で売れるって父さんが言ってて、
王家にも、納められてるって
父さんから聞いた事があるけど…」
「本当に、凄いわ。沙羅さんも
凄い上手だったけど、みくりちゃんも
それに負けてないわね」
遊牧民の女の子は年頃になる前から
自分の婚礼の衣装は自分で用意するのが習わし
基本的な刺繍の形を整えるのが
娘が生まれた時の母親の仕事だ
下に居る妹のそれを母様が出来なかったから
萌香の衣装の基礎の部分は
私が変わりに刺繍していた
でも 萌香も母様が刺繍をした衣装が
着たかったんじゃないかなって
お祝いに訪れた女性は
花嫁の衣装に刺繍を入れるのが習わしで
沢山の人に刺繍をして貰えた花嫁は
誰よりも幸せになれるのだと
信じられているからだ
「ねぇ、2人共。菜々緒さんからも
2人の衣装に針を入れてもいいかしら?」
そうお客さんが切れた合間に
菜々緒が2人に声を掛けて来て
兄嫁の菜々緒に衣装を差し出した