第42章 スルタンコラボ企画 上編 お相手:冨岡義勇
確かに菜々緒の手にある
その器に入っているとろみのある
白い液体には見覚えがあった
「遊牧民は農耕をしませんから、
馬乳酒には野菜に似た成分があるんだと。
前に、民族の研究にしばらく
家で滞在されていた学者さんが
仰っておられましたけどね」
そう菜々緒が続けると
あっという間に子供達は
その中身を飲み干した様で
「皆、まだまだ飲めそうね。
お代わり、用意するわね」
視線を感じたのか
ふふふと菜々緒が口元を押さえて笑うと
「お二人にも、お持ち致しましょうか?」
「いいのか?」
「ええ。勿論。大人も子供も
皆大好きですからね。馬乳酒は。
大きな瓶に一杯位、一日で無くなるもの」
そう菜々緒が言って
「馬の乳は夏から10月ぐらいまで
しか取れないから、馬乳酒は
食事の代り…一樹兄さんが一番
家では好きなんじゃないかな?」
そう言って小野寺が一樹の方を見ると
菜々緒からしっかりと一番大きな器で
馬乳酒を受け取っていたので
一樹の妻である菜々緒もそれを
把握して居ると言う事だった
「冬が来る頃に、残ってた
馬乳酒を凍らせておくの。
そして、次のシーズンが来たら
それを種にして新しいのを作るのよ」
みくりがそう馬乳酒に付いての
説明をして来て
菜々緒がお代わりの馬乳酒と
義勇と杏寿郎にも馬乳酒を差し出して来て
器に入った泡の立つ
その酸味のある匂いにする
白い液体を眺めて
「この香りと、その製法…それに味、
ヨーグルトに近いのだろうな」
義勇がそう器に注がれた馬乳酒の
香りを楽しんでこくっと喉を鳴らして飲むと
「確かに、前に飲んだものと味が違う様だ」
「そうだな!美味いっ!
自慢したくなるし、幾らでも飲めそうだな!」
しばらく無言のままで
アルヒを飲んでいた父親も
それが2杯目3杯目となる頃には
饒舌になっていて
私達の小さい頃の話をしては
涙ぐんで
両隣りに義勇と杏寿郎を座らせて
しきりに2人にアルヒを勧める物だから
「もっと、飲めぇ、
家のアルヒは旨いだろ?」
「ああ。美味いな!」
「悪くない。王都では飲めないからな」
「父さん、ほどほどにしといてよ?
明日二日酔いになっても、
面倒見ないから…ね?なぁ。悠斗」
「まぁ仕方ないんじゃない、父さんも。
きっと、飲みたい気分なんだよ」