第10章 春が来りて 前編 お相手:冨岡義勇
「俺はもう少し……、お前の気持ちが
ハッキリするまで待つつもりでいた」
私の気持ちがハッキリするまでって
じゃあ 冨岡さんは…
私が修行の邪魔になると
胸の奥に押し込んでいた
冨岡さんへの恋慕をみんな
知っていた……と言う事で
「お見通し……だってって事ですか?」
「お前はまだ、子供だ……何も知らない」
知らないと言うのは
私が男の人を知らない身体だから
子供扱いされてるって事?
目が合って
視線がぶつかって
深い深い
青い 義勇の瞳の奥に
熱い
揺らぎの様な物が見えて……
「か、からかわないで下さいっ、
私はこう見えても17なんですから!
もう……子供じゃありませんっ!」
そう言って
俺に子供扱いをされて
口調を荒げる辺りは まだ子供だなと
思ってしまわなくもないが
きっとそう感じるのは
彼女が石清水の様に清らかで
純潔な存在だからだ
まだ 女になり切っていない
「だが、まだ子供だな」
「そ、それは私に
経験がないからって事ですか!」
そう言って 俺の言葉の意図に気が付かないで
ムキになる辺りが 子供なのだが
正直な所
彼女が俺に向けて居る
敬愛にも似た感情に気がついてはいた
男女のそれに例えるより
憧れとか尊敬に近いような
そんな感情に思えてしまって
俺は自分の中にある
情動にも似た感情を
何も知らない 彼女にぶつけるのは
間違っていると思っていたから
「ああ、お前は何も知らない」
俺と言う男が
お前に対して どんな感情を抱いていたかも
きっと 知る由もなくて
スッと義勇がみくりに背中を向けると
「今日は、もう休む」
と短く言って
みくりの隣を通り過ぎようとした時に
ギュッと袖を掴まれて引かれた
「みくり?」
「だったら、子供じゃなかったら……いいんですか?」