第10章 春が来りて 前編 お相手:冨岡義勇
大の男の それも酔っ払いを
2人も連れて帰って来てしまって
みくりには迷惑をかけてしまったな
客間に布団を用意しながら
義勇は考えていた
「炎柱様、音柱様?
お水をお持ちしました、お飲みになって…」
みくりがお盆に
水の入ったコップを二つ乗せて戻って来て
煉獄と宇髄の肩を叩いた
「音柱様?宇髄様…?」
トントンともう一度宇髄の肩を叩くも
宇髄からの反応は返って来なくて
規則正しい寝息を立てて
どうやら眠ってしまっている様だった
「炎柱様?お水……飲めそうですか?」
煉獄の方はぼんやりとした表情をしていて
じっとみくりの顔を見ていたので
「どうぞ」と
みくりの差し出した水を受けとるのかと思うと
そのまま
みくり手の上から
手を重ねられてしまって
「あのっ、炎柱様?
私の手の上に手を置かれては
お渡しする事が…出来ませんが?」
「俺なら、君に……
そんな思いをさせたりしないが?」
と耳元で囁かれてしまって
「おっしゃられている意味が、
わかりかねますっ」
と突き放すように言って返した
ドキドキとして
自分の心臓が五月蠅い
煉獄さんは 知ってるんだ
私が……冨岡さんが 好きって事
冨岡さんはきっと私の事なんか
只の継子だとしか
弟子だとしか 思ってないんだろうと
ずっと自分の中にあった
恋慕を
修行の邪魔になると
封じて来たはずなのに……
どうして
煉獄さんにそれが知れてて
こんな事を言われるのか分からない
「冨岡の継子を辞めて、
俺の継子にならないか?」
冨岡さんの継子を辞めて
煉獄さんの継子になる? 私が?
「え?私は、水の呼吸しか……
使えませんよ?煉獄さんの、
いえ、炎柱様の継子にはなれませんから」
ギュッと重ねられた手を
握りしめられてしまって
「俺なら君に、
そんな思いはさせないがな…どうだ?」
といつの間にか零れていた
涙を指で拭われていて
その涙を拭った指で頬を撫でられる
「継子が無理なら、
俺の妻でも構わないがな!」
「は?……え?妻……?」
言われた事が理解できずに
みくりが腑抜けた声で返答した