第36章 聞こえない音 お相手:宇髄天元
「4番目でもいいなら…だけど」
「天元さん…こそ、いいんですか?
私なんて、お嫁さんにしても…
お嫁さんらしい事なんて、
なにひとつとして…できませんよ?」
フワッと宇髄が
花冠と一体化した
ウェディングベールを
みくりの頭の上に乗せて
「ちゃんとした、ドレスも
それなりの指輪も何にもねぇけどな」
誰からの祝福が得られる訳でも
ないし
誰かに承認される訳でも ねぇけど
その 真っ白なベールの下で
みくりが笑った
そして そのまま 深い眠りの国に落ちて行く
起きている時の記憶…が
コイツの中に残ればいいが……
もう 記憶も曖昧になっちまってる
俺の 俺の中には
しっかりと その姿も笑顔も
みくりの今の 音も…
記憶としてちゃんと残ってる
そっと眠る みくりの頬に口付けを落として
宇髄は部屋の窓に手を掛けると
その窓に足を掛けて
ふと みくりの方を振り返ると
「じゃあな。みくり。
また、明日来るわ」
明日 ここに来た所で
コイツが目を醒ましてるとも限らない
眠ったままの可能性だってある
次の日
俺はいつもの時間に
みくりの元を訪れたが
みくりは俺が部屋で過ごしている間
ずっと 眠ったままだった
サラっと眠る みくりの頬を撫でる
「どんな夢……、見てるんだかなぁ~。
海にでも、行く夢でも見てるとか?」
眠ったままのみくりの耳に
宇髄が貝殻を押し当てると
波の音にも似た あの独特の音がする
みくりの音だ
生きている音……
「海には…、
連れて行ってやれねぇかもな…」
ザァ……ンッ ザァ……ン
宇髄が瞼を閉じて
その貝殻に響く音に耳を澄ませる
「大魔法使いさんでも、
出来ない事あるんだ」
「起きてやがったのか?」
ふふふとみくりが笑った
「天元…さん、お願いがあるの」
「何だ?海と桜以外でな」
「ピアノ…が、弾きたい…な」
そうその願いを言う言葉を綴るのすらも
途切れ途切れなのに
到底 ピアノなんて弾ける訳ない…が
みくりのその言葉に
宇髄が頷いた
「ああ。ピアノ…弾かしてやるよ」