第36章 聞こえない音 お相手:宇髄天元
そのまま みくりは眠ってしまって
それから……
一日の殆どの時間をみくりは
眠ったままで過ごしていた
一日の中でも 目覚めているのは
断片的に数分の単位で
その時間は恐らくに
一日の中で 数時間しかなくて
医者の話だと
その目覚めている時間が段々と
短くなって眠っている時間が長くなり
1日に数時間だった
目覚めている時間が
2日に数時間
3日に数時間と…減って行くのだとさ
うわ言の様に声を出す事もあるが
その時だって 半分は夢の中にいる
限りなく ”死” に近い
深い深い眠りの国に
みくりは……今はもう
丸 2日眠って
偶に数分程 意識が戻る状態だった
「みくり…今日も、寝てんのな。
海……、連れては行けねぇけど。
代わりに音だけ……、な」
人の5感の中で 最後まで
残るのは 聴覚なのだと
そう胡蝶が言っていた
反応を返す事が出来ない状態でも
声は…音は その人に届いているのだと
「まぁ、本物の海には敵わねぇしな。
流石の大魔法使い宇髄天元様でも、
海は運んで来れねぇからな。
こんなもんで、悪ぃけどな」
そう言って 懐から取り出した
大きな巻貝をみくりの
耳に押し当ててやる
「聞こえ…るか?音……。
こんな話、あるんだわ。知ってる?
この貝が、海で生きてた時の音の
記憶が…残ってるだ…てな」
「……波……の音…?」
貝殻から聞こえる
この音が 波の音じゃない事ぐらいは
宇髄は知っていた
俺の耳にも聞こえてるからな
今 コイツが聞いてる音の正体
耳の中にある蝸牛ってトコの中にある
体液が波みたいに動いてる音だって事
俺は……いつもこの音も聞こえてるからな
けど…この今コイツが聞いてる
この 波の音に似たその音は
コイツの……生きている音だ
「ああ、そうだな。
波の音…がしてんだろ?」
「海…って五月蠅いんだね」
「五月蠅くねぇし」
「そう?…」
「なぁ、みくり」
「ん?…どうした…んですか?」
「俺と、結婚しとく?」
「そんな…、軽い感じでいいですか?」
冗談の様な口調で言われたから
どう返事を返したらいいのかと
目の前のみくりは
返事を迷っている様だった