第36章 聞こえない音 お相手:宇髄天元
「少しずつ…一日の中で
眠っている時間の方が多くなって、
今となっては一日の殆どを
眠ったままでお過ごしにあられます」
痛みもない
痺れもない
苦しみの無い
優しい昔の懐かしい頃の
夢でも見ているのだろうか?
思う存分に ピアノを弾いていた
その頃の夢の中に
「しかし…、時折……。
眠ったままにありながらに…、
宇髄様の名を呼ばれておられましたので。
お嬢様は、今はお眠りになられて
居られますが。貴方様のご帰還を
宇髄様のお声で。
みくりお嬢様に
お伝え頂きたいのであります」
そう宇髄に言って来た美咲の
言葉に対して
宇髄が小さく頷くと
ベットで眠っている
みくりの元へと歩み寄ると
ギシッ……ベットの端に腰を降ろした
「ごゆっくりお過ごし下さい。
私は、これにて下がらせて頂きます」
美咲が宇髄とみくりに対して
深く頭を下げて部屋を後にして行った
規則正しい 寝息を立てて
みくりが眠っていて
透き通る様なその陶器の様な肌は
血の気を失って
無機質な人形の様にも見える
「悪かったな…。みくり。
戻んの、遅くなっちまった」
サラっとみくりの
サラサラとした髪を手の上に取って
恭しくその髪に口付けを落とした
「良かったのか…?これで…。
俺は、お前の望んでた事
叶えて……やれてた?」
みくりがあの時
あのイチョウの木の下で言っていた
”片思いでもいいから、恋がしてみたい…”
そう言っていた その願い事を
叶えて…やれていたんだろうか
俺の勝手な自己満足で
過ぎてしまてたんじゃねぇかって
「みくり」
その名を 呼んでみる
当然 返事なんて…ある訳が
「ん?……天元…さん?
これは…、夢ッ…?
お仕事、早くに終わったんですね」
そう言って 焦点の定まらない目で
ふんわりと笑顔を作って来る
「早い?早かねぇよ。
あれから何日、経ってると…」
「まだ、4日…ほど、でしょう?」
みくりの言葉に
宇髄は驚きを隠せなかった
そうか 記憶がもう 曖昧なのか
眠ってる時間が長いのと
高熱が続いてたから……か
正確な時間の経過も もう…
「なぁ。みくり。
お前さ、恋以外にしてみてぇ事とか
行きてぇ場所とかなんか無ねぇのか?」