第36章 聞こえない音 お相手:宇髄天元
「15分…って」
「前に熱出たろ?
俺とイチョウ観に行った時。
あんとき、他の奴と話したり
してねぇのに熱出したのは、
俺との距離が近すぎたからだって。
俺のとって、ただの風邪でも
お前には命取りになるだって…」
「でも、その薬だって…
この病気に効くって実証されてない」
きっと 美咲が宇髄さんに言ったんだ
免疫抑制剤の事
だから…なの?
宇髄さんが来る時
窓が少し 開けたままなのも
私との距離を取っているのも
今だってそうだ
正面に向き合わない様に
顔が向いてる方向を
彼が調整してくれてるんだって気が付いた
「お前さ、その先生しか信用する気ねぇ?
俺の知り合いに、優秀な医者まがいの
事をしてるやつがいるんだけど。
お前の病気ってさ、ちゃんとした
病名ってわかってんのか?」
「似た様な症状の病気は幾つか…
あるにはあるのですが…、
脊髄性筋萎縮症…と呼ばれるのが
症状的に近いと言われましたが…。
私のそれは、その疾患の経過とは違うと…」
「だから、お前のトコのメイドに
言われた訳。お前と接触するなとか、
話す時は正面に立つなとか…」
くすくすくすとみくりが笑い出して
「美咲は、きっと私が
免疫抑制剤を飲んでるから、
感染を起こしたらいけないって、
心配してくれてるんだろうけど」
「近付けねぇし、やましい事の
ひとつもできねぇもんな。
こりゃ、参った」
そう言ってニッと宇髄が
不敵な笑みを浮かべて来て
「でも、まだ…私はッ、
宇髄さんの事が…好きって訳じゃ…」
宇髄の方を見ると
そこに宇髄の姿はなくて
声が後ろから聞こえた
「あっれー?もしかして、
まだ、気付いてない感じなの?
俺は、もう、みくりは
俺の事、好きだと思ってたけど。
俺の勘違いだったって、言いたいとか?」
スルッと後ろから手が伸びて来て
宇髄が手をみくりのお腹の前で組むと
宇髄の作った両腕の輪に
閉じ込められてしまった
「あ、あの…、放して…下さい」
「寂しかったんじゃねぇの?
もっと、俺と話したかった…んだろ?
距離が遠いのだって、気にしてたんだろ?
まだ、決心は付きそうにねぇの?お前」
恥ずかしかった 自分がこの数日
感じていた事を 言い当てられてしまって
決心って 何の決心なんだろう?