第36章 聞こえない音 お相手:宇髄天元
その 宇髄が言った言葉は
私の心にストンと収まってしまって
まるで 魔法みたいだって
そう思った…んだ
私のピアノを褒め称える言葉
小難しい言葉で形容されて
本当の気持ちなんて見えない様な
そんな 賞賛の言葉とは全くの正反対なのに
その言葉は こんなにも自然に
私の中に納まって来て
スッとみくりが自分の胸に手を当てて
グッとそのまま押さえつけた
宇髄さんのくれた言葉は
私のここに…
温かい 熱をもたらしていた
とくんとくんと自分の心臓が打つ感覚
まるで 夢見心地みたいに
ふわふわとする 感覚
私が今 感じてる感覚とか感情は
何 なんだろう?
フッと宇髄がみくりの方を見て笑った
「じゃ、また。明日も来っから」
鍵 開けといて と言って
宇髄がみくりに背中を向けて
手をヒラヒラと振ると
もう 彼の姿はそこになくて
「宇髄さんっ」
慌てて 足がもつれそうになりながらも
窓の所へ駆け寄って
窓の桟に手を掛けて
窓の外をみくりが覗き込むと
宇髄の姿は かなり離れた
通りの手前の方に捉える事が出来て
もっと 言いたい事とかあったのに
行っちゃった…
「でも、明日も来るって」
そう宇髄 本人が言った
その言葉の通りに次の日も
決まった時間に彼は家に来て
ピアノを聴いて
そしてちょっとだけ 話をして
そして また
「じゃ、また。明日も来るわ」
そう言い残して帰って行く
宇髄が去った後に
みくりが時計を見ると
丁度 15分…だった
そして また次の日も
そして次の日も 彼は 15分だけ
ここで過ごして 帰って行く
でも 私にとって この一日の中の
15分は 一番 楽しみな時間になっていた
けど その日は 違っていた
15分経って居るのに 帰る素振りがない
それが 20分 25分になる頃に
「俺が居ると、邪魔?」
「えええっ、
いえ、そんな事はありませんっ!
ありませんが…あの、どうして今日は」
「ああ、それ?気になっちゃう感じ?
俺、この後仕事行くからさ、明日の分
前借りで、15分と15分で30分」
そう言われて 疑問があった
どうして 15分なんだろうって