第36章 聞こえない音 お相手:宇髄天元
「いいんじゃねぇの?」
返って来たのは意外な答えだった
甘ったれるなとさっき言われたのに
「だぁから、それでいいんじゃねぇの?
それに、十分だろ?何か問題あんの」
何が十分なのか
何の問題の話なのか
宇髄さんの中では全てに納得が付いている
様にもあったが 私には何に対する納得なのか
それすらもさっぱり分からない
「分かんねぇ?」
説明が欲しいのかと確認して来られて
みくりがその問いに頷いた
フワッと目の前のその整った顔が
笑顔に変わって こんな風に
気取らないそんな笑顔が
この人に出来るのかと
思わず その笑顔を魅入ってしまっていて
「お前も死ぬけど、俺も死ぬ。
で、俺は今、生きてるし、お前も
今、生きてるだろ?ここまでは分かるな?」
確かに 私が病気で死ぬ時期は
大体は分かってるけど
そう遠くない未来の話で
そして 命を掛けた仕事をしている
宇髄さんが お仕事でいつ
命を落とすかなんて事は 分からない話で
もしかすると 私がこの病気で
死ぬよりも 先になるかも知れないって事??
になる…よね?
今 生きている と言われて
みくりが自分の心臓の上に手を当てると
自分の内側と外側から
その確かな拍動を感じるし
それに 私の目の前の宇髄さんは
確かに生きてるからこうして動いていて
私と話をしている
「はい。確かに、宇髄さんの
お言葉の通りに、あります。
私も、宇髄さんも、今、生きております」
ポンポンと大きな手が
みくりの頭を撫でる
「宇髄さんは、頭を気安く撫ですぎです。
私は、子供ではありません」
「何言ってるんだ?恋も
したことねぇ、おぼこい娘なんざ。
お子様に決まってるだろ?
それとも、教えて欲しい訳?
大人の世界…ってやつ」
そう言ってからかったつもりだった
俺がそう言うと
みくりが目をキラキラと輝かせて
ぐっと両手を握りしめると
「はい!是非とも、お教えして
頂きたくあります!宇髄さん」
「後先考えずに、
言ってくれちゃうじゃねぇかよ。
全く、恐っそろしいわ。お前。
そんな事言ってっと、泣いて後悔すんぞ?」
「しませんよ。後悔はしません。
むしろ、私が後悔するなら、
しないまま、知らずままにする方にあります!」
後悔は…しないか…