第36章 聞こえない音 お相手:宇髄天元
「じゃ、お嬢様と
ちょっくら行って来るわ」
そうヒラヒラと宇髄が
美咲に向けて手を振ると
フワッと
みくりの身体が宙に浮いて
「えぇ??」
何が何だか分からない内に
私は宇髄さんに横抱きにされていて
「あっ、あの!歩けますからっ」
「あ?何言ってんの?お前。
足、…動かしにくいんだろ?
俺は大魔法使い様だからな…。お前
抱えるくらい、何ともねぇの。
ああ、そうだ…お前さ」
みくりが自分の腕の中で
降ろして欲しいと乞うように
じたばたと手足を動かして藻掻くが
その抵抗も気にする様子もなく
宇髄が美咲に向かって声を掛ける
「お前。俺と…同業者だろ?
この家に雇われでもしてんの?」
同業者…と
宇髄が美咲に言って
みくりがその2人の顔を交互に見た
美咲はうちのメイド…使用人なのに
同業者って…どういう事???
あ そうか 分かった!
「あの、もしかして…、
美咲も宇髄様と同じくして、
魔法使いなの?
さっきね、美咲が私に、
素敵な魔法を掛けてくれたの」
「そ、確かにそうかもな。
んじゃ、行くか。あまりゆっくりも
してらんねーんだろ?」
「20分」
そう静かに美咲が言って
「あ?」
「旦那様がお戻りになるまでの
時間にあります。それまでにお戻りを」
「この家は、許可も居るし
その上、時間の制限付きかよ…。
とんだ、箱入りのお嬢様だな。
みくりは。んじゃ、メイドさん
お嬢様、借りてくわ」
「行ってらっしゃいませ。
みくりお嬢様。お気をつけて」
そう挨拶をして
深々と美咲がみくりと宇髄に頭を下げる
宇髄様こと
大魔法使いさんは
私を軽々しく抱えたままで
窓の桟に足を掛けると
そのまま…
トンっと飛び降りた
落ちるっ
落ちるううっ
ギュッと宇髄の服をみくりが
恐怖のあまり握りしめて
瞼を強く閉じた
落ちると思った
その感覚が来ると思ったのに
みくりの身体を包んだのは
落下する感覚ではなくて
その逆にフワリと浮かび上がる様な
そんな…感覚で
あれ?どうして?
窓から飛び降りたのに…落ちない…
どうして?
「目。…開けてみ?」
そう上から宇髄の声がして
恐る恐るにみくりが薄目を開いた