第36章 聞こえない音 お相手:宇髄天元
その鏡の中に居る自分の顔を見ると
まるで 自分が病気だと言うのが
嘘の様に 血色のいい 艶やかな肌をした
健康そのものな顔をした
自分の姿があって
「わぁ。これが私?
凄い、美咲。美咲も魔法使いなの?」
そう 眩しいばかりに笑顔を
こちらに向けて来てくれるから
「そうですよ。と言いたい所にありますが
美咲は、お化粧を施したに過ぎませんので。
お嬢様、宇髄様がお迎えに来られる前に
そのお姿のお写真を撮らせて頂きたいのですが」
折角こうしてお洒落をしたんだ
美咲が写真を撮ってくれると
そう言いだして来て
「うん。まだ時間があるし…いいよ」
「はい、ではカメラの準備をしますので」
そう言って美咲が下に
カメラを取りに行って
美咲に写真を数枚撮って貰った
こうして 写真を撮るのも
随分と久しぶりだ
それも そうか 自分の部屋で
引きこもってピアノを弾く
その繰り返しだけの毎日は
わざわざ 写真を撮る様な
そんな きっかけもないままだったんだ
大魔法使いさんとの
約束の時間が近づいて来て
美咲に頼んで
窓の鍵を外して貰った
ああは言って 約束はしたけど
大魔法使いさんは本当に来るのだろうか
そんな事を考えて居ると
スッと突然 窓のある方向へ
美咲が深々と頭を下げていて
その 先にみくりが視線を向けると
いつの間にか そこには宇髄が立って居て
だって窓 鍵は外したけど
閉じたままだし
それに 音もしなかったし
やっぱり 宇髄様は 魔法使いなんだと
そう みくりが考えて居ると
美咲はその目の前の現実を
気に留める様子もなくて
淡々とした事務的な口調で宇髄に言った
「本日は、みくりお嬢様が
お世話になられると伺っております。
宇髄様。ご存じであられますでしょうが、
お嬢様は、お体を患っておられる身。
くれぐれも、ご負担になられる事を
お避け願いたいのと、外出の件は
主人には伏せてありますが…」
とそこまで 美咲が話した所で
「何だ?この家は…、ちょっとそこまで
紅葉観に行くってだけでイチイチ
親の許可が要るって言うのか?」
子供でもあるまいしとでも
言いたげに宇髄が返した
「いいの。美咲っ。私が見たいって
連れて行って欲しいて、お願いしたんだから」