第36章 聞こえない音 お相手:宇髄天元
その宇髄の質問に
なかなか答えようとせず
そのまま俯いてしまった
「答え……らんねぇなら。
無理には聞かねぇよ。
じゃあさ。お前さ、好き?」
「……?好き…?」
いつの間にか
落ちていた紅葉の葉を拾い上げて
自分の鼻の上にぴとっとつけると
その葉をひらひらと
まるでうちわか何かの様にして
みくりの眼前でそれを動かした
「だから。好きかって聞いてんの。
お前。みくりだっけ?
ピアノ、好きなのか?」
ピアノ……が好きかと 聞いて来て
「ピアノ…は、好きです。
幼い頃から、ずっと…
ピアノばっかりだったので」
「ふーん」
そう言いながら宇髄は
部屋の壁の方を見て自分の顎を擦る
「病気なんだろ?お前」
宇髄の言葉にみくりが顔を上げた
病気だって事は一言も言ってない
それに今日は昨日と同じで調子がいい
歩いてる所を見られたのならまだしも
どうして この人には
何も言ってないのに…
私の病気の事が…分かったの?
「誰か……に聞いたのですか?」
「いや。聞いてないけど?」
誰かに聞いた訳じゃない
俺の耳でそう 聞いただけだと
言った所で信じられはしないだろうけど
不思議そうな顔をして
その大きな瞳がこっちを見ていた
「これ…、ピアノの礼。良く染まってんだろ?」
そう言っていつの間にか
部屋の散らかっていた
イチョウや紅葉の葉が
その手の中にあった
さっきまで 部屋のあちこちに
散らばっていたのに
「宇髄様は、天使であられないのでしたら。
魔法使いにあられますか?」
「まぁな。そんなモンだ。
これじゃあ、アンタのピアノに
どうにも足りねぇと思ってたトコ。
何か、ご希望あるか?叶えてやるよ。
この大魔法使いの、宇髄天元様がな」
音を……聞いてたら 分かる
もう コイツは
顔色もいいし 頬や唇は桜色をしているが
その身体に 巣くっている物は
嫌な……音がしてるのが… 聞こえる
そう 最初は
上手いのか下手なのか分からないが
楽しそうな音がするピアノに興味があった
だが……今は
何も知らない様な
純真無垢な顔をして
その 静かに背後まで迫って来ている
死に…… 怯えている
その小さな身体からは
色んな 音が していたんだ…
俺にしか 聞こえない音で