第36章 聞こえない音 お相手:宇髄天元
みくりが何かに
気が付いて立ち上がると
開かれた窓の外を覗き込む
部屋の隅に控えていた使用人が
不思議そうな顔をしてこちらを見ていた
「どうか……なさいましたか?
みくりお嬢様…。
そろそろ風が出て参りましたね。
ピアノのお時間は今日は
このぐらいになさいませんか?」
そのまま みくりの隣に立つと
立って居たみくりの身体を
一旦 ピアノの前の椅子に
座らせて戻した
キイっと開け放っていた窓を
その使用人が締めると鍵を落とした
「あまり…お体を冷やすと
良くありませんですから」
「うん…、それは分かってるけど」
みくりが座ったままで
自分の膝をサスサスとさすっていて
その様子に気が付いた
使用人がみくりに視線を合わせると
「お薬をご用意いたしましょうか?
それとも、お湯をお持ち致しましょうか?」
そう確認されて来て
みくりは首を横に振った
「ううん、大丈夫…。ちょっと……
痺れるだけだから、痛い訳じゃないから」
「風で髪が……少々乱れておりますね。
櫛を通して、結い上げましょう……」
髪に油を馴染ませて
丁寧に櫛を通されて行く
「今日は…ご入浴の準備は
如何したしましょうか?みくりお嬢様。
今日は、熱もございませんし、気温も
高い日中にお済ませになられませんか?」
「ありがとう、……美咲。
そうね…、今日は体調がいいから…。
お風呂に…入れそう…。ねぇ、美咲。
お風呂の用意が出来るまで、窓を閉めたままで
いいから…もう少し、ピアノ…を
弾いても…いいでしょ?お父様には…その」
「美咲は、お嬢様のご入浴の用意で
忙しくあります故、何も見えませんし、
何も…、聞こえません。ピアノの音などは
特に耳に入りそうにないです……」
その美咲の言葉を聞いて
ふんわりとみくりが微笑んで
「ありがとう。美咲。
美咲の事…、大好きよ…」
「ありがとうございます、みくりお嬢様」
では…とそのまま美咲は
みくりの部屋を後にして
入浴の用意を整えに一階へと向かった
お嬢様は生まれつきは
そうではなかったが
ご病気になられてからは
今年で 17になるが…そのほとんどを
この屋敷の中で過ごしていた