第9章 酒に呑まれる夜 お相手:不死川実弥
みくりの横顔を
不死川は眺めていた
声に出して聞いてみたいと
思う気持ちがないわけじゃない
お前は俺をどう思ってるのか?
俺はお前の 何なのか?
只 都合のいい時に
身体を合わせるだけの相手なのかとか
それ以上の何かがあるのか ないのか
きっと俺は
その答えを コイツに求められないままに
コイツを今夜も
………また 抱くんだろうなぁと
不死川は考えていた
町に着くと 都合よく
それなりに良さそうな旅館を見つけて
そのまま泊まる事にした
夕食の支度が整うまでに
風呂を済ませて浴衣に着替える
不死川の傷はいつもよりも小さいが
それなりに深かったので
今日は10針ほどで済みそうだ
血で汚れた隊服の洗濯を
旅館の人にお願いして
みくりが不死川の待つ部屋に向かった
着崩した浴衣の大きく開いた間からは
もう止血してるのか
何かを当てている訳でもなく
傷口が覗いていた
新しく腹部に出来た12センチほどの傷を
みくりが手際よく縫合して行く
じっとその様子を不死川が見ていて
自分の傷を人が縫ってるのを見るのが
そんなに楽しいのかと思ってしまうが
「なあ、お前……。俺んとこ、来ねぇか?」
「え?それは、怪我した時に縫う係として?」
私の事 便利な奴だとでも
思って言ったのだろうか?
「それも…してもらいてぇが。
後は……俺の…」
不死川がみくりの手首を掴んで引き寄せる
「ちょっと、今、縫ってるのに危ないから!」
みくりの耳元へ口を寄せると
「夜の相手も……してくれんだろ?」
「ちょっと、からかってるの?
私はそんなんじゃ……」
そんなんじゃないと言うんなら
どうして俺を受け入れたりするんだ?
コイツは そこに
それ以上の何かがあるんじゃねぇのかよ
もう少し みくりを問い詰めてやろうと
思っていた所で
旅館の人が夕飯の支度が整ったと
声を掛けて来たので
食事を摂る広間へと向かった
数組の宿泊客と少し離れて食事を済ませると
不死川が熱燗を付けてほしいと
旅館の人に頼んで
こっちを見ると
「飲むだろ?お前も…」
と聞いてきたので
「そうね。頂こうかな」
と答えた