第35章 絶対君主の言いなり お相手:煉獄杏寿郎 R-15
ゴトンとブドウ酒の瓶を
隣のテーブルへ置くと
クイッと手の甲で口元を
槇寿郎が拭った
「……で、俺が知らないとでも
お前は思っているの……か?」
「上王陛下の仰られておられる事が、
何の事でありますのやら、
俺にはさっぱり…」
そう言って杏寿郎が
わざとらしく肩をすくめて見せた
隣に傅いている義勇は
気が気でなかった
もうスルタンの玉座を退いて
かなり経つが……
俺も…戦場での 上王様のお姿は
記憶に鮮烈に残っているので
鬼神が如きの強さ……であった事は
憶えているし……それに
煉獄は牙が抜けた腑抜けた獣とそう
上王様の事を良く言っているが…
その身体から滲んでいる気迫は
獅子王と呼ばれた当時と
なんら遜色を感じさせない位だ
心臓を射貫く様な
その視線だけで殺されそうな
そんな鋭い視線をこちらへ向けて来ていて
「ふん。しらじらしい。勝手にしろ。
お前がとぼけて白を切るのなら、
説明してやろう……。お前の妃の…、
伊達 紀之(いだちのりゆき)の娘
……行方が知れぬそうだな」
その言葉に義勇がハッとする
内密にと後宮内で処理してる事案なのに
それが王宮に
情報が漏れているだけでなく
上王廟にまで
情報が漏れてしまっていて
「俺が知っているのは…、
それだけじゃないぞ?杏寿郎。
……上院議会を通さずに…、お前が
勝手にその妃の侍女を妾として
妃同等に扱っている…事もな」
筒抜け……もいい所だな
杏寿郎は思った
あの場で俺は……
椿の出奔は伏せる様にと
命じたはずなのに…
椿の行方の捜索も極秘裏に
精鋭の少人数で当たらせていると言うのに
「それも…俺にあんな偉そうな口を
叩いて置きながら、自分はどうなんだ?
随分とその……妾に入れ込んでるそうだな。
俺の耳にも届いているぞ?…お前が……、
3晩続けて、夜を共にしたとも…な」
「それに関しては……、俺は
貴方に文句を言われる筋合いはない。
貴方との約束も毎日、
…欠かしてはいないからな」
くっくっく……と槇寿郎がが喉を
鳴らしながら笑った
「成程…。ならお前は俺との
あの、約束を違えてはいないと…
そう、言いたいのだな?」
今度は ふっと杏寿郎が
息を漏らしながら口の端を上げる
「ええ。その通りにあります。上王陛下。
この話はこれで終いにありましょうか?」