第35章 絶対君主の言いなり お相手:煉獄杏寿郎 R-15
皮肉な事にも…なのか
彼女の弟には 弓の才覚はなく
そして彼女には 月詠みの才覚がなく
本来ならば…あるべきものが
備わるべき方に備わらなかったのであれば
「もしやと思って、尋ねるが。
その月詠みの才は、君の弟にあるのか?」
「はい、スルタン様の
おっしゃられる通りにあります。
弟には、月詠みの才があります……」
悔やまれたのだろうな
彼女のご両親もだろうが…
それを誰よりも 悔やんだのは
彼女自身と… その彼女の弟だろうが
「確かに、それも…俺の期待に
沿えないと言っていた理由かも知れんな。
だが……妃に俺が求める物は何も、
褥の技巧と、
月詠みの才だけとも限らんがな」
そう言って みくりの顔を見て
杏寿郎がふっと笑った
「俺は…悪くないと思って居るが?
みくり。君と言葉を交わすのも。
碁を打つのも、 三節棍で打ちあうのも。
共に馬を走らせるのも…、悪くないと
そう思ってるのだが?君はまだ……
俺の妃に、自分はなれないと…
俺に言うつもりでいるか?」
そうか 確かに
私は自分の意思をはっきりと
彼には明示していなかった
自分には家の都合がある手前と
濁したような返答しかしていなかった
彼の妃に… なる事は
私には叶わないと
妃として後宮に入る事は
お前には許されていないと…
父様にはハッキリと 言われて居ていたから
「そうか、なら。
…君の父の許しがあれば。
…考えると言う事でいいか?」
「しかし…、私の父が…
考えを改めるでしょうか?」
そう 杏寿郎に問いかけてしまってから
しまったと思った
だって これじゃあまるで 私が
杏寿郎の 彼の 妃に…っ なりたいって
にっと満足そうな笑みを
彼が浮かべていたので
私のその辺りの事は知れてしまっていて
いたたまれなくなってしまって
どうしたらいいものかと
感じていると
ふっと影が降りて来て
私を見下ろす 彼と目が合った
「なら…、君の中に…
幾ばくかのそれが…、あると…
そう…取っていいのだな?」
サラっと髪を一束その手に取ると
杏寿郎が みくりの髪に口付けた
そっと指の腹が
私の唇に触れて来て
ドキッと胸が跳ねた
その時…
バァンと勢いよく倉庫の戸が開いて
声が入口から聞こえて来た
『お楽しみの所悪いが、7分遅刻だ』