第33章 絶対君主のお気に入り お相手:煉獄杏寿郎 Rー15
今も目の前でこうして
俺の存在にもまだ気が付かずに
織物を眺めているその目の輝きは
他の妻達にはない 物に 違いない…が
そんな布切れ一枚を
そんなに眺めて何が楽しいのやら
それにみくりの右手…
無能な侍女と椿は彼女の事を言ったが
能ある鷹は爪を隠すとも言うからな……
俺の目で見極めるのも
悪くはない…だろう
彼女が本当に只の無能な侍女なのか……と
「今夜の夜伽を命じる」
ん?声が……
今 何て?
声が聞こえてハッと我に返って
その声の方を見ると
杏寿郎の姿があって
気を害している様でムスッとした
表情をしている
「聞こえなかったのか?」
「すいません、聞き逃しておりました…」
「なら、もう一度言おう。
聞き漏らすのは許さないぞ?」
そう改めて言われてしまって
「は、は、は、はいっ!
……申し訳ございませんっ…スルタン」
ムッとその眉間に皺が寄った
あ まずいとみくりは思った
これは機嫌を損ねていると
「改めろ」
「えっ?」
「呼び方を改めろと言っている」
「スルタン…は、スルタンで在られますに
呼び方を改めろと言われましても…。
ああっ、スルタン様」
「君は俺をバカにしてるのか?
どうしてそうなる?俺の名は…?」
そう改めて名前を問われてしまって
スルタンのお名前をお呼びするなど
恐れ多くありつつも
当のスルタン本人がそれを確認して
来ている手前答えない訳には行かないのだが
「煉獄、杏寿郎様…に在られます」
「ああ。で、名は?」
「え?ですから、煉獄……」
「俺の名前はどうでもいい、君の名前を
聞いてるんだが?俺は…」
「みくりと申します」
「苗字は?」
「小野寺、小野寺でありますが」
ふむっと杏寿郎が
自分の顎に手を当てて
自分の記憶を探るかの様に唸り声を上げる
「もしやと思って尋ねるが、
北東の国境の領土の主である。
小野寺与壱の娘か?かつての
領土拡大の戦で、相手の首を馬上から
射落とした、弓の名手…だが……」