第32章 地味な俺の地味じゃない彼女 村田さん
「あの、…私…、
お風呂を頂いて来ますね?」
「ああ。お風呂ね。
いや、俺もお風呂……入りに行くから!
あ、浴衣……着替えるよね?
確かこっちに、
浴衣とタオルあったと思うから。
俺、用意するよ」
そう言いながらも
部屋の壁に備えられている
クローゼットから
浴衣とタオルと上から羽織る羽織り
取り出すと 運びやすい様に
きちんとタオルに包んで
手渡してくれる辺りが 何とも
村田さんらしいな……と感じてしまって
「はい、これ。みくりの分ね」
彼の手から差し出された
包みをみくりが受け取る
「はい、ありがとうございます。村田さん」
旅館の自分達の部屋から
浴室まで移動するのに
手を繋いで廊下を歩く
こじんまりとした部屋数も少ない
そんな小さな宿だったから
時間も遅かった所為もあって
他の宿泊客は入浴を済ませて
それぞれの客室でくつろいでいる様で
誰とも すれ違う事もなく
そのまま 大浴場と呼ぶには
その入口からして 小さすぎる様な
この宿の浴室へ着いた
「えっと…、みくり。
じゃあ、終わったらここでいい?
それとも先に、部屋に戻っとこうか?」
「でも……、待って貰うのは…。
私の方が時間が……掛かるから…」
みくりは自分の髪が長いので
どうしても入浴には時間が
掛かってしまうし
俺を待たせるのを申し訳ないと
感じている様だった
「ああ、あそこに。
座って待てそうな場所があるから。
上がったら、そこで待ってる…から」
そう言って村田が言いながら
湯上り処を指さした
じゃあ また後で……と
入口で村田と別れて
みくりが女性用の脱衣所で
着ていた衣類を脱ぐと
軽くだけ畳んで脱衣籠に入れた
備えつけられている姿見で
自分の全身を映す
所々に残る 鬼との戦いの痕
その中にある
ひと際大きな傷跡に
自分の手を添えて滑らせる
鬼殺隊なのだから
誰しも大なり小なりには
それはあるだろうけど
女の身体には
大きな傷跡は 目立ちすぎるから
お風呂場に誰も居なくて良かった…