第32章 地味な俺の地味じゃない彼女 村田さん
そう言い残して
中に入って行った彼が
戻るのをひとり待っていると
段々と…
不安な気持ちになって来る
夜の闇が怖い… だなんて
いつも 仕事をしてる時には
感じたりなんて
する事も…ないのに
闇が…苦手な訳でもない
それに 独りだって…
慣れてる……はずなのに
単独の任務も……珍しくもないし
月のない夜の時だって…
でも 今… 私が……
不安になるのは…
ひとりが嫌だって… そう思うのはきっと
それは 私が…
独りで 居たくない……からだ
ただ 独りで居たくないからじゃなくて
私が……
ハッとみくりが顔を上げて
村田が入っていた旅館の
玄関の方へ目を向けた
こちらに近づいてくる気配…
間違いない あの気配は…
ガラガラと玄関が開いて
中から彼が出て来て
私と目が合うと
困ったような顔をしていたから
部屋は空いてなかったのかな?と
みくりが思っていると
「部屋はさ、
空いてるには、空いてたんだけど。
ひとつ……だけしか空いてないんだって。
俺は別の泊まれそうな場所……探すからさ。
ここ、泊って行きなよ?」
そう後ろにある旅館を
村田が指さしながら
みくりに言って来たので
ふるふるとみくりが首を横に振った
「やだ」
「でも、こんな時間に女の子
一人に出来ないでしょ?
もう夜だって遅いんだし……ね?
わがまま言ってないで。みくりは、
今夜はここに泊まる。いい?」
ギュっと彼の袖を掴んで
その注意を自分に向けさせる
「村田さんのバカ……、いくじなし…」
「ああ。もう、どうせ俺は、
バカだしいくじなしだよ…。
何とでも言ってくれても、いいけども。
どうせ、俺は…バカで
いくじなしだしな……っと」
そのままその胸に飛び込んで
彼の身体に自分の腕を回して
力一杯に抱きついた
「ちょっと、みくり?何やってんの?
こら、離れてって……。離れるッ」