第32章 地味な俺の地味じゃない彼女 村田さん
「あの…、村田さん」
今にも消え入りそうなくらい
か細い声でみくりが村田を呼んだ
さっきまで
あの炎柱を威圧するような
圧を出していたのが
この子だとは思えない位に
今 俺の前に居るのは…
俺の可愛い彼女でしかなくて……
「ごめん、みくり。
俺…ッ、みくりが
俺の彼女だって事ハッキリ言えなくて…。
本当、ごめんっ」
そう謝罪の言葉と共に
村田がみくりに対して頭を下げて来て
そっと頬に
ひんやりとした感覚が触れて
それが みくりの手だと気が付いた
「みくり…?」
「違うの……ッ、
違うの、……違う…ぅっ…」
違うと何度も言って
そのまま泣き出してしまって
どしたらいいものかと慌てて
その頭を撫でて
自分の胸に持たれかけさせる
「俺が悪いんだから、
みくりは泣かなくていーの。
だって、そうだろ?
俺が、ちゃんとみくりと
俺が付き合ってるだった言えば、
済んだ話なんだからさ?」
村田の胸に自分の顔を埋めたままで
みくりが首を左右に振る
「違うのっ、村田さ…んが、
悪いじゃ…、なくて。悪いの…は、私っ。
お酒勧められて……
ちゃんと、断れなかったし、
隣でお酌するのも……断れなかったから」
「それは仕方ないって、
俺だってちゃんと分かってるって。
柱の言う事、聞かない訳には行かないし。
俺がそれを、
止められなかったのもあるんだからさ。
みくりがそれを気にする必要ないから」
しばらくそのまま
その背中を撫でて
彼女が落ち着くのを待った
村田がみくりに手を差し出して
その手をみくりがとって
そのまま手を繋いで
行く当てがある訳じゃなく
とぼとぼと月明りの下を歩く
「あ、あそこ…旅館がある。
ちょっと待ってて、部屋空いてないか
聞いてくるから」