第31章 年上の彼女の憂鬱 お相手:冨岡義勇
「お紅茶が……、
冷めてしまいますわよ?」
「ああ。そうだな……、頂く」
そう言って
ソーサーを手に紅茶を飲む所作も
美しいし 気品を感じる……
彼は…今は 鬼を狩る
そんな仕事をしているが
元は名家のお坊ちゃんだったのかも知れない
「旨い…な」
そう 小さな声でボソッと義勇が呟いて
「そう?それは良かったですわ…
この前町に出た時に買った、
紅茶の茶葉ですの」
「…みくりは、紅茶を
淹れるのが上手いんだな。
良い香り……がする」
そう言う義勇の表情が
心なしか綻んで見える
「そんな、褒めても何も出ませんわよ?
私の腕がいいんじゃなくて、
茶葉がいいだけですの」
そう冗談ぽく返して ふふふと笑うと
彼は先ほどとは一変して
表情を曇らせていて
「…冨岡……さん?」
「怒ら…ないのか?」
「怒る?…でも、
怒ると言うのであれば…
私が冨岡さんに
怒られる…方なのではありません事?」
私がそう返せば
意味が分からないと言いたげに
その端正な顔を歪ませる
「その、……前にこうして
出会ってから、ひと月以上になる…、
それに……一緒に
出かけていても、遠出もできないし。
ゆっくり楽しめないんじゃないのか?」
「そちらの方こそ……、
怒っておられるのでは?」
「手紙の事か…、
それはみくりの所為ではない…。
俺が怒ってると、
思っているのか?みくりは」
じっとその深い青い瞳が
私の顔を見つめて来て
その青い彼の瞳に
困惑した表情の自分の顔が映っている
「怒ってるから…、
そんな顔をしてるんじゃないのか?
それに……、遠い。前に会った時より…」
ああ そうか
彼は剣士だから……
間合い
とか そんな感じに捉えていて
私が座ったこの距離を
前に会った時の距離と比較してるのか
「その、…詰めていいのか、
悪い物なのか…考えていた」
「いえ、その……
冨岡さんは、あまり
近すぎない距離の方が
いいのかと…思っておりまして」