第31章 年上の彼女の憂鬱 お相手:冨岡義勇
次の日に医者に往診に来てもらい
身体の傷は大したことはないと聞いて
疲労が眠っているだけだろうから
その内目を醒ますだろうと言われた
それから 彼の看病をした
自分の身に突然として起こった
小説の様な出来事にわくわくしていたから
付きっ切りの看病も苦にはならなかった
そして 次の日 目を醒ました彼の
深い 深海の様な色の瞳と
澄んだ 聞く者の心に響く様な
その声に 心を奪われたのを憶えている
それから 彼は礼と言う名目で
色々と上等な品物を贈ってくれたり
高級な料亭に食事にも連れて行ってくれた
不思議だった
羽振りがいいにも程があり過ぎたからだ
彼は一体何者なのだろうかと
私は彼に対する興味が尽きる事はなかったが
当の彼は 淡々と要件のみしか話さず
あの聞き惚れる様な美声は
あまり多く耳にもすることも叶わない
が 何度はそうして会っている内に
気が付いた事もあった
彼 冨岡義勇と言う人は
自然 であり
普通であり
変な遠慮と言う物がない
適度な距離感が彼にはあった
近い訳でもなく
特別に遠い訳でもない
その 距離感が心地いいと
そう感じるようになっていた
彼は多くを語らないが
私についての詮索もしない
それも 心地いいと感じる
大きな理由だったのかも知れない
私が知っている 男性と言う
生き物の範疇からは
少々外れた そんな異質な存在でもあった
男性である事で
女性よりも優位に立とうとするような
そんな態度がなかったから
だから 何か深い意味があった
訳ではなくて
それを 感じていると彼に
何気なく伝えてしまったのだ
そう 何の考えもなくにだ
「私…、冨岡さんと居ると。
心地いい…感じがします」
そう私が告げると
彼は一瞬 不思議そうな顔をして
その端正に整った顔を顰めた