第28章 可愛い君に……は お相手:煉獄杏寿郎
玄関に向かった杏寿郎の後を
みくりが少々乱れた寝巻を
直しながら
速足になって追いかけて来て
玄関で履物の履いている
杏寿郎に追いついて来た
少し呼吸を乱していて
慌てた様子の私を見て
彼は驚いた様子で尋ねて来た
「あのまま、
休んでいれば……いいものを…。
みくり、どうした?」
「あの……、
出られる前に……切り火を」
「切り火か…、すまないな」
仕事に赴く彼の
杏寿郎さんの背中に切り火を切ると
「武運長久を……お祈りしております」
「ああ。行ってくる」
「行って……らっしゃいませ。杏寿郎さん」
屋敷を後にする杏寿郎を
深く頭を下げてみくりが見送った
こうして 彼が仕事に行くのを
見送ったのは……何度目だろうか
こうする 度に……行かないでと
引き止めたいと言う衝動と
心の中で……戦って来た
彼の姿は夜の闇に溶けてしまって
もうここからは姿を確認する事が出来ないが
ポロ……と
無意識の内に涙が一粒
零れて
頬を伝い…… 落ちた
私の心の中の不安を表すかの様にして
一粒 零れたのを皮切りにして
一粒 また 一粒と
拭いきれない 不安が
胸を締め付けて来て
零れる涙を 止める事が敵わなくて
こんな事では 毎回毎回
いけないと思いつつも
彼の無事を祈るしか出来ない
自分がもどかしい…
彼の杏寿郎さんの
お嫁さんになるのなら
それこそ こんな事では
務まらないのに…
ダメだ ダメダメ
しっかりしないと
そう思って
自分に気合を入れようと
自分の両頬を打とうとした手を
止める様にして両手首を掴まれた
自分の頬に来るはずの
痛みがなくて
「え?どうして?」
自分の身に起こったことが
理解できずに
閉じていた目を
みくりが開けると
目の前に家を出たはずの
杏寿郎さんの姿があって
私の両手首は彼にしっかりと
握りしめられていて