第23章 惣菜屋さんの筑前煮 後編 お相手:煉獄杏寿郎
「確かに、みくりさん。
貴方が言われる通り、いつもの店にある
あの筑前煮の味ではない…が、…これには
貴方の気持ちが込められている…、
違っていないだろう」
槇寿郎の言葉に隣に座っていた
千寿郎がふふふと声を漏らして笑う
槇寿郎様の言葉と
その千寿郎君の笑いから
ある事に気が付いてしまった
さつまいもの入った筑前煮…
これを 食べて欲しいと思って
作った… 相手に
父の筑前煮の味じゃなくて…
私の味の筑前煮を食べて欲しくて…
カァアアアアッ…と
真っ赤にみくりの顔が染まって行って
「すっすす、すいませんっ!
私とした事が…。
そのっ、つい…作り過ぎてしまって」
「杏寿郎の食べる量なら。
これだけなのなら、
…作りすぎではないだろうが」
槇寿郎様には
全てを見透かされていた様で
これは いつお戻りになるか分からない
杏寿郎さんに 食べて貰おうと思って
用意していた物で
お戻りが…遅くなりそうだったので
ひとりでは持て余して居た物だった
みくりが恐縮する様にして
小さくなってしまって居て
「美味しいです。
みくりさんのお作りになる
筑前煮、美味しいです」
「千寿郎…君…、ありがとうっ…」
「お顔を…、上げてはくれまいか?
みくりさん」
そう言って
槇寿郎の言葉に促される様にして
みくりが顔を上げると
そこには 杏寿郎さんの様な
真夏の太陽ではなくて
穏やかな春の日の様な
温かさを称えた 瞳があって
「杏寿郎は…幸せ者だ。こうして…
好物を用意して待っていてくれる。
自分が愛した女性が居るのだからな」
その言葉の意味を
みくりは理解して
思わず自分の口元を押さえた
「あのっ、槇寿郎様。
…しかしながら、私は…っ」
年増だし 石女かも知れない
そして 恥ずかしい事に出戻りなのだと
そう続けようとしたのを
槇寿郎が首を横に振って制止する