第23章 惣菜屋さんの筑前煮 後編 お相手:煉獄杏寿郎
鬼殺隊士でありながら
それも次期炎柱となる俺が
真横に来られるまで
全く 気配を感じられなかった
「もし、そこのお方…。大丈夫ですか?
もしや、お身体のお加減が…、
お怪我をなさっておいでで?」
絵に描いたかのような
親切な男性だった
敵意が全くないから
気配に気付けなかったのか…
こちらへ向けて来た笑顔は
とても穏やかで親切な安心できる笑顔だった
「いえ、怪我はしておりませんので。
人を呼んで頂く、必要はないが…」
ぐぅううううぅと槇寿郎の腹が鳴って
説明するまでにも空腹なのだと
その男性に伝えてしまって
「申し訳ない…、お恥ずかしい限りで…」
そう言って 槇寿郎は
いたたまれなくなって
目を伏せた
「ああ。お腹が空いておいででしたか。
もし、良ければこれを…
召し上がられませんか?」
そう言って竹の皮に包まれた
弁当らしき物を男性が差し出して来て
「いや、しかし、これは貴方の…」
「いえ、どうぞ。
多めには持って来ておりますし。
私が食べるよりも、貴方が食べた方が
弁当も喜ぶと言う物だ」
竹の皮につつまれた
具のはいっていない塩だけの
握り飯と
「良かったら、こちらもどうぞ」
そう言って差し出された
曲げわっぱの中には
筑前煮が入っていて
「店の売れ残りに、火を入れてあるので
少々色は悪いが…、味は保証しますよ」
と目の前の男性が笑って
ひょこっとその男性の影に隠れて
小さな3歳ぐらいの女の子が
僅かに顔を覗かせて
じぃーっとこちらを見ている
食べろと促されたが
そんな大きな目で見られていては
喉が詰まりそうだ
食べにくい…なと 感じながら
槇寿郎が思案していると
ぽそっと小さな声が聞こえて来た
「とーとの、筑前煮はねぇ。
とぉーーってもおいしいんだよ。
みくりも、だぁーい好きなの」
「ああ、すいません。こら、みくり。
駄目じゃないか、見られていては
こちらの方も、食べにくからな」